2013年4月30日火曜日

特許の仮想表示(virtual patent marking )について


1.はじめに

「pat.●●●●」という表示や、「特許番号●●●●」という表示が、製品の筐体表面、或いは製品のパッケージに付されていることがあります。
物理的特許表示の例


これらは「特許表示」と呼ばれるものです。

我国の特許法では、特許権者は特許に係るものに特許表示を付するよう努めなければならない、と規定されているだけであり(特許法第187条)、特許表示は“義務”ではありません。

したがって、我国の特許法では、特許表示をしていなくても、特許権者が不利益や罰を受けることはありません。

しかし、特許表示を行うことによって、第三者の模倣抑止効果が期待できます。
需要者に対しては、その製品が特許発明に関する優れた製品であることをアピールできます。

それでは、その製品が、一つの特許発明だけでなく、複数の特許発明が採用された製品である場合には、特許表示はどのように表示すればよいのでしょうか?
パッケージ等に、幾つもの特許番号を長々と記載する必要があるのでしょうか?

そこで、今回、紹介するのは、米国の改正特許法で認められた「virtual patent marking(仮想表示:以下、「virtual marking」と記す」という方法です。

「virtual marking」とは、名前の通り、インターネットのウェブページで特許情報を公開するという方法です。
製品やそのパッケージには、ウェブページのURL情報(アドレス情報)のみを掲載しておきます。

これは、現行の我国特許法で認められた方法ではありません。

しかしながら、「virtual marking(仮想表示)」を採用することで、製品パッケージ等にアドレス情報のみを掲載しておけば足りるため、製品パッケージのデザインの自由度が増すというメリットがあります。

加えて、複数個のうちの一つの特許権が切れた場合には、ウェブページ上の特許情報を変更すれば足り、そのたびに製品パッケージを変更する必要が無くなるため、パッケージ変更コストを削減できる、というメリットもあります。

それでは、米国特許法で定められた「virtual marking」を、実務上の注意点と共に、簡単に解説します。




2.「virtual marking」の具体的方法

(1) virtual markingの概要

上記のように、virtual markingでは、製品やそのパッケージには、ウェブページのアドレス情報のみを掲載します。
そして、上記アドレス情報でアクセスできるインターネットのウェブページ上に、特許番号等の特許情報を公開します。

(2) ウェブページは無料でアクセスできるものでなければならない。

これは、米国改正特許法で『特許権者,及び特許権者のために若しくはその指示に基づいて,合衆国において特許物品を製造,販売の申出若しくは販売する者,又は特許物品を合衆国に輸入する者は,その物品に「patent」という文字若しくはその略語「pat.」を特許番号を付して貼付することによって,または、その上に、「patent」の文言または略語「pat」を、アクセス費無料で公衆がアクセス可能なインターネット上に掲載するアドレスと共に付し、特許物品を特許番号と関連付けることにより、又は物品の性質上,そのようにすることが不可能な場合は,当該物品若しくは当該物品の1 又は2 以上が入っている包装に同様の通知を記載したラベルを付着させることによって,当該物品が特許を受けていることを公衆に通知をすることができる。』と規定されていることに拠ります(米国特許法第287条)。
したがって、有料のウェブページに特許情報を公開しても、「virtual marking」とは認められません。

(3) 最適なアドレスについて

「virtual marking」に関する複数のウェブ情報によれば、製品やそのパッケージに表示されるアドレス情報は、どのようなものであっても良いというわけではなく、‘patent’や‘pat.’の文字を含むものであることが好適であるとされています。

つまり、「virtual marking」(仮想表示)とは、従来の物理的表示に代わるものであるため、製品のパッケージ等に表示されるアドレス情報は、一見してそれが特許に関する情報であると判るものであることが好ましいと言えます。

したがって、好ましいアドレス情報としては以下のようなものが考えられます。
1. patent.companydomain.com
2. pat.comapnydomain.com
3. www.companydomain.com/patent/
4. www.companydomain.com/pat/

尤も好ましい表記は、「1」或いは「2」です。
これは、最初に‘patent’や‘pat.’の文字がくることと、これら文字に続いて会社情報に関する‘comapnydomain’がくるため、会社が保有する特許情報に関するアドレスであることが明確となるためです。

「3」「4」は、最後に‘patent’や‘pat.’の文字がくるため、これら文字に製品購入者が気付かず、単なる会社紹介のアドレス情報であると誤解されるおそれがあります。

(4) 好ましくないアドレスの表記

www.companynamepatent.com」の表記
この場合には、‘patent’や‘pat.’の文字が独立していないため、米国特許法で認められた「virtual marking」であるとは認定されないおそれがあります。

patent:www.randomdomain.com」(‘randomdomain’は任意のドメイン)
私見としては、米国特許法第287条の「「patent」の文言または略語「pat」を、アクセス費無料で公衆がアクセス可能なインターネット上に掲載するアドレスと共に付し、」を充足するもののように思えるのですが、これは不適であるとする意見が散見されました。

(4) 全ての製品には、個別のvirtual markingを付与することが最適

すなわち、‘patent.company.com / model●●●/’などのように、製品毎に個別のvirtual markingを付与することが最適です。

(5) ウェブページに表示される特許情報等

アドレス情報に基づいてアクセスできるウェブページには、以下のような情報が表示されるようにしておくことが好適です。

1. 製品名 
2. モデルまたは固有のID
3. "次の米国特許は、この製品に適用されます"と言うテキスト表示
4. 米国特許番号のリスト

(6) ウェブページに求められる機能

ウェブページのシステムは、以下のような機能を備えるものであることが好適です。

1. 正確な製品クレームを見つけることが容易であること。
2. ハッキングに対するセキュリティ機能を備えていること。
3. 公開履歴を追跡し、証明可能な機能を備えていること。 
4. 訪問者の活動ログの取得機能を備えていること。




3.まとめ

以上のように、米国特許法に沿った「virtual marking」は、色々と制約があるようです。
しかしながら、米国市場では無く、我国の市場のみに供給される製品に、「物理的表示」に代わって「仮想表示」を付することには何らの制約もありません。

なお、米国特許法の「virtual marking」は、始まったばかりの制度ですので、実務上は、今後の裁判例などを見守っていく必要があります。

以上
(弁理士 森本聡)

<a href="http://samurai.blogmura.com/benrishi/" target="_blank">にほんブログ村 弁理士</a>



2013年4月26日金曜日

無効審決の取消判決の拘束力と訴権の乱用について


1. はじめに

最高裁大法廷(最高裁ホームページより)


私が初めて特許無効審判の審決取消訴訟に関わり、知財高裁から判決を頂いたときに、「この判決の拘束力は何処まで及ぶのだろうか?」「結論だけ?」「理由も?」「細々とした引用発明と本件発明の一致点や相違点の認定までも?」といったような疑問が生じました。

そこで、審決取消判決の拘束力について私なりに理解できたことを、この記事にまとめてみました。

なお、この記事では、無効審判請求に対して不成立審決がなされ、それに対する審決取消訴訟が提起されて、裁判所が取消判決を下し、それが確定した場合に限るものとします。すなわち、「無効不成立類型」の取消判決の拘束力のみを取り上げます。


2. 問題の所在

(1) 審決取消訴訟において取消判決がなされ、これが確定すると、審判官はさらに審理を行い審決しなければならない(特許法1812項)。つまり、取消審決が確定すると、必ず審判に差し戻される。

(2) この場合、一般の取消訴訟と同様に、取消審決の拘束力が働くため、審判官は判決の趣旨に従って行動しなければならず(行訴331項)、これによって紛争の蒸し返しを防ぐことが可能となる。

(3) そこで、この「取消審決の拘束力」がどの範囲にまで及ぶかが問題となる。


3. 無効不成立型訴訟における取消判決の拘束力についてのまとめ

(1) まず、審決取消訴訟の取消判決においては、拘束力が生じるのは、判決理由中の判断のうち、判決主文を導出するのに不可欠な法律上・事実上の判断についてである、と解されている。
つまり、拘束力は、判決主文に包含されているものに限られず、判決理由中の判断についても生じる、と解されている。最高裁の判例でも「拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる」と説示している(最判平成4 4 28 日〔高速旋回式バレル研磨法〕)。

(2) したがって、原告の主張した取消事由12のうち、1は理由がないが2に理由があるとして審決取消の結論に至った場合には、取消事由2についての判断にのみ拘束力が生じる。

(3) 加えて、取消判決において、引用発明と本件発明の一致点や相違点を認定したうえで、判決理由を判断して、判決主文を導出している場合には、これら一致点や相違点の認定についても拘束力が生じるものと解する。つまり、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定として、引用発明と本件発明の一致点や相違点の認定がなされている場合には、これら一致点や相違点の認定についても拘束力が生じる。

(4) 判決の拘束力は、第2次取消判決(第1次審決⇒第1次取消判決⇒判決確定⇒第2次審決⇒第2次取消判決)にも及ぶ。

(5) 但し、審判の手続的な瑕疵をとらえて第1次取消判決で審決を取り消したとき、或いは実体判断をした場合であっても無効事由の存否を確定させない形で第1次取消審決がなされたときには、第2次取消判決における第1次取消審決の拘束力は限定的なものとなる。

これは無効不成立類型で第1次取消判決があった場合も、手続的な瑕疵をとらえて審決を取り消したときや、実体上の無効事由の存否を確定させなかった場合には、当該無効事由をめぐる紛争が解決済みであるとはいえないからである。

例えば、東京高判平成13 5 24 日平10(行ケ)267〔フラッシュパネル用芯材〕では、次のように述べて、第一次の取消判決では無効事由の存否が確定していないとした。

前判決は、先願発明においては、芯材として、複合シートを用いることが技術的に自明であると認定し、同認定を前提として、複合シートをコア材料として用いることが先願発明において自明のことであると認めることもできない、とした審決の認定判断は誤りであるとの判断はしたものの、先願発明と本件第1発明の構成が同一であるか否かについて、それ以上には何らの認定判断もしていない」。

そして、上記の点の事実認定に立ち入り、再度の無効不成立審決を是認している。

(6) 他方では、第1次取消判決の拘束力によっては無効事由の存否が確定していないとしつつ、実態審理に立ち入って、取消判決後の無効審決を是認した例もある(東京高判平成151014日平14(行ケ)99〔永久磁石直流モータ〕)。


4. 取消審決の拘束力を無視して同じ主張を繰り返すことは訴権の乱用となる。

(1)  取消判決の拘束力については以上であるが、確定した取消判決を受けて、改めて行われる審判の場で、取消判決の拘束力を無視した主張を繰り返し、その後に取消訴訟を提起すると、知財高裁から「訴権の乱用」との手厳しい指摘を受けることがある。

(2) 例えば、マルエージング鋼事件(知財高判平成19131日平17(行ケ)10716)では、知財高裁は以下のように述べて、原告に対して訴権乱用と指摘した。

はじめに本件は,被告を請求人とする本件特許の特許無効審判請求は成り立たないとした前審決に対して審決取消訴訟が提起され,同審決を取り消す旨の前判決がされ,同判決が確定した後,特許庁が特許無効審判請求について改めて行った審決に対する審決取消訴訟である。

ところで,行政事件訴訟法331項は,「処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」と,同条2項は,「申請を却下し若しくは棄却した処分又は審査請求を却下し若しくは棄却した裁決が判決により取り消されたときは,その処分又は裁決をした行政庁は,判決の趣旨に従い,改めて申請に対する処分又は審査請求に対する裁決をしなければならない。」と規定している。

法は,行政処分等を取り消した確定判決に,単に,行政処分等の効力を遡って消滅させるという直接的な効果のみならず,これを超えて,行政庁に対して,取消判決における結論に至るまでの認定判断を受忍し,その趣旨に沿って判断をし,また行為をする義務を課すという積極的な効果(拘束力)を付与している。法が,行政処分等に対する取消判決(確定判決),このような積極的な効果を付与した理由は,違法であると判断されて取り消された行政処分等について,実質的かつ実効ある救済(是正)を迅速に図るためであることは明らかである。

上記の趣旨に照らすならば,特許無効審判事件についての審決取消訴訟における審決取消しの確定判決の拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断のすべてに及ぶことになる(最高裁判所平成4428日第3小法廷判決民集464245頁参照)。したがって,審決取消判決確定後に,改めて審理することになった当該審判事件における審理の範囲及びこれに対し不服がある場合に提起される審決取消訴訟における審理の範囲は,拘束力で遮断されていない主張,立証に限られることになる。

すなわち,改めて行われる当該審判事件において,審判官が,取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは,行訴法331項に違反するという理由で許されず,また,当事者も,審決取消訴訟の認定判断に抵触する主張を繰り返し,その主張を裏付けるための立証をすることは許されない(当事者が,拘束力に抵触する主張を新たにすることが許されないことはいうまでもないが,さらに,既に行った主張も撤回すべきであり,審判官においても,審理手続において,争点の解消に向けて積極的な指揮をすべきである。)

(省略)

本訴訟において,原告訴訟代理人が,このような前判決において決着した事項について,延々と主張をすることは,司法審査の意義及び行訴法が確定した取消判決に拘束力を付与した趣旨についての基礎的な理解を欠く訴訟活動であるといえよう。

(省略)

原告訴訟代理人は,本件訴訟において,「本件審決は,前判決の文言をそのままなぞって理由を構成している。」,「本件審決に違法が生じた原因は,前判決に違法が存在していたことによる。」,「本件審決の違法を指摘することは,前判決の違法を指摘することに直結するので,理解を容易にするため前判決の違法性の要点を説明する。」との趣旨を準備書面に記載し(平成171119日原告準備書面,ただし不陳述),取消判決の拘束力の意義を無視した,独自の見解を前提として,その後の主張を繰り返している。本件訴えは,専ら確定判決の拘束力に抵触する失当な主張から構成されているが,裁判所がこのような訴えを適法な訴えとして許容することになれば,特許が無効として確定する時点を徒に遅らせる結果を招き,安定した法的地位を速やかに確立させることによって得られる公共の利益を害することになる。

このような本件訴えの特異性等に鑑みれば,本件訴えは,確定した前判決による紛争の解決を専ら遅延させる目的で提起された訴えであるというべきであって,その訴えの提起そのものが,濫用として許されないものと訴訟上評価するのが相当である。


参照(パテント2009  Vol. 62 No. 5 審決取消判決の拘束力―実務上の諸問題と義務付け訴訟の可能性― 東京大学教授 玉井 克哉)。

以上
(弁理士 森本聡)

<a href="http://samurai.blogmura.com/benrishi/" target="_blank">にほんブログ村 弁理士</a>

2013年4月25日木曜日

iPhone画面の意匠について(画面デザインの保護について)


平成18年の意匠法改正により、ディスプレイに表示される画面デザインが、意匠法の保護対象となりました。

具体的には、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話機、ビデオ録画再生機、カーナビ、炊飯器、洗濯機、コピー機等において、操作に用いられる画像や、時計の時刻表示のように、それがなければ物品自体が成り立たない画像が、その物品の一部分を構成する要素として保護されることとなりました。

例えば、アップル社の「iPhone」の画面デザインを例にすると、以下のような様々な画面デザインが登録になっています。






「Siri」ですね。
今は、私は使っていません。




こんな画面ありました?



















購入直後の状態ですね。


















カメラでシャッターを押したときですね。



















時計の「タイマー機能」ですね。



















まさに「設定」画面ですね。



















iPhoneを横にしたときの「計算機」ですね。
立派な関数電卓になります。








「な」を押した状態では、確かにこうなりますね。










「Game Center」ですね。
私は使ったことがありません。











以上のように、アップル社は、iPhoneの様々は画面デザインについて意匠登録出願を行い、意匠権を取得しています(上記は、ほんの一部です)。


最後に、画面デザインについて意匠登録出願する際の注意点です。

意匠法で保護される画面デザインは、機器の機能と密接な関係にある画面デザインに限られます。

このため、PC(パーソナルコンピュータ)にインストールされるソフトウェアの画面は、たとえプリインストールされたものであってもPCとは別個に創作されているため(物品と結び付かないため)、意匠法の保護対象とはなりません。

(確かに、上記のアップル社の登録意匠に係る画像デザインは、創作の時点や流通・販売段階においても、物品(iPhone)と一体となっています。)


グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)も、物品と結び付かなければ、意匠法の保護対象とはなりません。

(確かに、上記のアップル社の登録意匠に係るGUIの画面デザインは、全て「iPhone」の外形形状の全体を示したうえでの部分意匠となっており、画面デザインは「iPhone」という物品と結び付いています。)

ゲーム機の設定画面は保護対象となりますが、ゲームを行っている状態の画面は、ゲーム機とは別個に創作されているため、意匠法の保護対象とはなりません。

つまり、プログラムにより表示される画面デザインのうち、現行意匠法による保護の対象となっているのは、特定の専用機向けに作成され、該専用機に予め記録されたプログラムにより表示される画面デザインに限られるということです。

最後に、私のiPhoneのスクリーンショットを挙げておきます(じっくり見ないで下さいね)。
全2面で、使用頻度の低いアプリは、第2面に集約しています。















以上です。
(弁理士 森本聡)


<a href="http://samurai.blogmura.com/benrishi/" target="_blank">にほんブログ村 弁理士</a>



2013年4月24日水曜日

串カツ屋から罰金を請求されたときの対処方法


先日、「「ソースの二度付けは禁止やで!」の商標が登録されました。」の記事を書いたところ、知人から以下のような内容の質問を頂きました。

串カツ屋に「ソースの二度付けは禁止!二度付けしたら罰金1万円を頂きます。」と書かれた張り紙が貼ってあった場合において、うっかり串カツをソースに二度付けしてしまい、店側から1万円請求されたら、やっぱり、お客は店側に1万円を支払わなければならないのか?





弁理士の業務範囲外ですので、知り合いの弁護士に聞いてみました。

結論は「払わなくていい。」ということらしいです。

以下がその根拠です。

誤って串カツを容器のソース内に二度付けしてしまった場合において、店側に発生する損害は、最大限に見積もっても容器内(二度付けされたソースが収容されている容器内)に入っているソースの全部がダメになる程度である。

容器内のソースの全部に、1万円の価値があるとは到底思えない。

だから、損害額としての1万円は妥当な金額ではなく(1万円は高すぎ)、1万円も支払わなくても良い。要は、駐車場の「無断駐車したら罰金〇万円!」に根拠が無いのと同じ。


この答えを受けて私から、「んじゃ、やっぱり、ある程度の金額は支払わなければならないのか?」と質問したところ、

「まあ、ある程度は。違法行為では無いと断言することも難しいし。1000円ぐらいが上限じゃないの。」と言われました。

さらに私から「じゃあ店に入るときに「二度付けしたら、罰金1万円を支払います。」っていう誓約書が店側から提示され、お客がこの誓約書にサインしていた場合にはどうなる?」と質問したところ、

「難しいけど、サインしたことを「錯誤」で争うしかない。」
「ていうか、そもそも、そんな店には始めから入らんだろ!」と怒られました。



ということで、店のルールを尊重しながら、楽しく串カツを頂いて下さい。


知財とは無関係の話ですいません。

以上です。
(弁理士 森本聡)

<a href="http://samurai.blogmura.com/benrishi/" target="_blank">にほんブログ村 弁理士</a>

2013年4月23日火曜日

韓国の「ダサソー」の商標使用差止め。日本の「ダイソー」と類似。


2013年4月1日付けの時事ドットコムによると、ソウル西部地裁は、日本の100円ショップ「ダイソー」の韓国の商標権者が、同国の格安雑貨店「ダサソー」の運営会社を相手に求めた商標侵害禁止の仮処分申請を一部認めたそうです。

同地裁は、韓国語では二つの商標が、文字数や、最初と最後の文字が同じであるなど外見上似ていると指摘。業務形態も類似していたため、ダサソーが商標権を侵害している、或いは侵害の恐れがあると判断したそうです。

時事ドットコムの記事はコチラ


このように、今回取り上げる事例では、「ダイソー」と「ダサソー」の二つの商標が「外観上似ている」ことを理由として、両商標は類似していると判断されました。

それでは「外観上類似している」とはどういうことでしょうか?



商標の類否判断について

具体的な本事例の解説に入る前に、まずは、商標の類否判断の基本的な考え方を紹介します(韓国も我国も基本的な考え方は同じです)。

まず、二つの商標の類否判断は、「外観」「称呼」「観念」の3つの要素に基づいて判断されます。まずはココが重要なポイントです。

外観類似とは、対比される商標の見た目が似ていることをいいます。
例えば
ライオン」と「テイオン」(⇒「ラ」と「テ」の形が似ている)

SPORTYAGE」と「SPORTAGE」(真ん中の「Y」の文字の有無は気が付き難い)

OLIMPIC」と「OLYMPIC」(真ん中の「I」と「Y」の違いは気が付き難い)

などは外観類似であるとされています。

称呼類似とは、対比される商標の読み方が似ていることをいいます。
例えば
サンシール」と「サンジール」(濁音か否かの違いのみ)

アスパ」と「アスペ」(ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属する)

などは称呼類似であるとされています。

観念類似とは、対比される商標の意味が似ていることをいいます。
例えば
」と「KING

午後の紅茶」と「Afternoon Tea

などは観念類似であるとされています。

以上が商標の類否判断の基本的な考え方です。


2013年4月22日月曜日

著作権の移転が争われた事例(「チャングムの誓い」著作権侵害事件)


著作権の移転の「第三者対抗要件」と、文化庁への移転登録手続きについて

韓国のMBCが製作したテレビドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」に出てくる小道具をめぐって、韓国の「キャッチスター」という会社が、日本放送協会(NHK)、NHKエンタープライズ、NHKプロモーションの三社を著作権侵害で訴えていた事件で、平成25年3月28日に、東京地裁は原告「キャッチスター」の訴えを棄却する判決を下しました。


(王の主治医となった医女についての記述がある韓国の歴史書)


訴えの具体的内容は、NHKら被告らが「宮廷女官チャングムの誓い」の展覧会を開催して小道具や衣装、ドラマセット等を展示し、関連グッズを販売した行為が、原告であるキャッチスターの上記小道具等の著作権(展示権及び複製権)を侵害したというものです。

訴訟における争点は、以下の(争点1)~(争点7)でしたが、裁判所は(争点3)のみを判断して、原告の請求を棄却しました。

(1) 「本件小道具等」が著作物であるか否か(争点1)
(2) 原告がMBCA(MBCの子会社で美術制作等を担当)から本件小道具等の著作権の譲渡を受けたか否か(争点2)
(3) 被告らが本件小道具等の著作権の移転登録の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない第三者(以下「背信的悪意者」という。)に当たるか否か(争点3)
(4) 被告らが原告の本件小道具等の著作権を侵害したか否か(争点4)
(5) 被告らが著作権法45条1項に基づき本件小道具等をその原作品により公に展示することができたか否か(争点5)
(6) 原告の損害額(争点6)
(7) 消滅時効の成否(争点7)

裁判所は、争点3について、被告らと制作会社MBCAとの間の本件協約締結の時点において、原告がMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたことを被告らが認識していたことを認めるに足りる証拠はなく、原告の著作権の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があることも窺えない、として被告らが背信的悪意者に当たるということはできないと判断しました。

加えて、裁判所は、本件小道具等の著作権の移転登録を経由していなから、原告は被告らに対抗することができないと判断しました。
そして、原告の請求は,その余の点につき検討するまでもなくいずれも理由がない。として、原告の請求を棄却しました。


「移転登録」と「第三者対抗要件」について

以上のように上記の事例では、裁判所は、著作権の「移転登録」が行われていていなかったため、「原告は被告らに対抗することはできない。」と判断しました。

一般的には、『「原告は著作権の譲渡を受けていない」→「原告は著作権者ではない」→「原告の請求を棄却」』という構図であれば判りやすいのですが、裁判所は、原告が著作権を譲渡されたか否かについては全く触れず、「移転登録の手続きを取っていない」→「第三者に対抗できない」→「原告の請求を棄却する」と判断しました。

では、「第三者に対抗」とはどういう意味なのでしょうか。
「著作権の移転登録」とは具体的にどういう手続きなのでしょうか。

「第三者に対抗できる」とは、「自己に権利があることを第三者に主張できない」ということ。

著作権は実体の無い「無体物」であるため、誰が権利者であるかを一見して判別することはできません。このため、著作権法では、取引の安全を確保するため、すでに効力の生じている権利関係の変動などを第三者に主張するための要件(第三者対抗要件)として、移転登録の手続きを求めています。つまり、移転登録の手続きを行っていなければ、第三者に対しては「私が権利者です。」とは主張できないということになっています。

逆に言うと、当事者間(権利を譲り渡す人(譲渡人)と権利を譲り受ける人(譲受人))の移転の効力は、移転登録の手続きを行わなくても、当事者間の意思表示により有効に発生します。
但し、当事者以外の第三者(例えば、著作権を侵害しているおそれがある者)に対して「私が権利者です。」と主張する場合には、移転登録が完了していることが必要となります。

●「著作権の移転登録」の具体的手続

著作権の移転登録手続は、文化庁に対して行う手続きです。
弁理士は代理人として移転登録手続きを行うことができます。

手続きは、登録権利者(譲受人)と登録義務者(譲渡人)の共同申請が必要ですが、登録権利者の単独申請も可能です(登録義務者から単独申請承諾書を貰う必要があります)。

移転登録には、18.000円の登録免許税を文化庁に納める必要があります。
弁理士や特許事務所に移転登録をお願いすると、上記の登録免許税以外に手数料(数万円)が必要となります。


今回の事例から理解して頂きたいこと

著作権を譲り受けた者が、第三者に対して権利を行使する場合には、文化庁に対して移転登録の手続きを行っていることが必要であるということ(移転登録が第三者対抗要件であるということ)。

但し、移転の効力自体は、当事者間の意思表示により有効に発生するということ。

まあ、当事者間であっても、口約束だけで、後々に「権利を譲り受けた」、「権利は譲渡していない」というような不毛な言い争いが生じるおそれがある場合には、著作権が譲渡された時点で移転登録手続きをしておくことも一案かと思います。

以上
(弁理士 森本聡)


<a href="http://samurai.blogmura.com/benrishi/" target="_blank">にほんブログ村 弁理士</a>



2013年4月20日土曜日

女子高生が「対吸血ヒル剤」を開発。特許を取得


2013年4月18日付けの朝日新聞デジタルによると、金足農業高校(秋田市)の女子生徒らが、ヤマヒルの忌避剤を開発し、特許を取得したとのこと。


wikipediaより

男子校に通い、「ケンケン・クッスの☆☆クラブ」という極めてDeepなアイドルラジオ番組を聞くことだけを楽しみにしていた私からすると、高校時代に一つのことに打ち込み、成し遂げ、そして「特許権取得」という確固たる成果を残した彼女らは素晴らしいと思います。

審査段階で提出された補正書から推測すると、
「サリチル酸誘導体からなる群から選ばれる化合物の1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とする環形動物個体群および扁平動物個体群防除剤。」(請求項1)
という、結構広い権利を取得したようです(特許公報で確認したわけではありません(特許公報はまだ発行されていません))。



で、今日のテーマは、女子高生??が特許権を取るメリットについてです。

「マスコミに取り上げられる。」「ライセンス料が入って親兄弟が楽になるかもしれない。」「みんなから凄いと言われる。」「チヤホヤされる。」などのメリットではありません。

特許出願から特許権取得に至るまでの手続きにおいて、未成年者に認められている
「減免制度」というメリットを紹介します。

まず、特許を取得するためには、特許出願から3年以内に特許庁に対して「審査をして下さい」とお願いする必要があります。この手続きを「審査請求」といい、普通は、118.000円+審査請求数×4.000円の審査請求費用を特許庁に納めることが必要となります。
未成年者の場合には、審査請求費用の全額が減免措置の対象となり「免除」となります。つまり「0円」となります。
(未成年者が市民税や所得税を払っていない場合に限ります。以下も同様です。)

次に、特許庁審査官の審査を通り、特許査定を得た場合であっても、「第1年~第3年の特許料」を一括して特許庁に納めなければ、特許権は発生しません。
未成年者の場合には、第1年~第3年の特許料も「免除」となり、「0円」となります。

第4年~第10年の間の特許料は半額軽減となります。


以上が未成年者に認められるメリットですが、一方で、以下のようなデメリットもあります。

未成年者が手続きを取るときは、法定代理人によらなければ手続きを取ることができません。

未成年者の法定代理人は、原則、親権者であるため、父母が婚姻中の場合には父親と母親が共同で代理人となります。

したがって、未成年者の発明について特許申請をする場合には、法定代理人である父親や母親の代理権を証明する必要があります。

具体的には、未成年者本人の戸籍謄本(抄本)、住民票及び法定代理人の住民票などを、特許庁に提出しなければなりません。

未成年者が市民税等を支払っていないことを、課税証明書等で証明する必要もあります。

以上のように、煩雑な書類の提出が必要だというデメリットがあります。



余談ですが、私は小学5年生が完成した発明の特許出願を代理したことがあります(立派な発明で、ちゃんと特許になりました(特許権を得ました))。

以上です。
(弁理士 森本聡)

a href="http://samurai.blogmura.com/benrishi/" target="_blank">にほんブログ村 弁理士</a>

2013年4月19日金曜日

「浚渫用グラブバケット事件」の紹介-特許性判断における引用例の特許図面の解釈についてのまとめ-


1.はじめに

無効審判などの特許の有効性を争う場面において、審判請求人が、引用例の特許図面に記載されている技術的事項(寸法、割合、角度等)に基づいて、特許性を否定する主張を行うことがある。

しかしながら、従来の審決例、或いは裁判例では、「特許図面は模式図であり、設計図面のような正確な寸法、割合、角度で描かれているとは限らない。したがって、引用例の特許図面には技術的事項は記載されていない。」とする判断が確立していた。

これに対して、今年1月(20131月)に、引用例に係る発明の内容(請求項および明細書に記載の発明の内容)を勘案して、引用例の特許図面における技術的事項の記載を認める判決が知財高裁に下されたため、これを紹介する。

2.特許図面の技術的事項の記載を否定する裁判例
2.1 引張装置事件
(東京高裁平成8年(行ケ)第42号 審決取消請求事件)


本件発明


引用例
本裁判例では、鉄道車両における衝撃を緩和するための引張装置に関する発明についての進歩性が争われた。そこで、裁判所は以下のように判断した。

引用例の図面に描かれているくさびシューがたまたま約50度ないし約55度のテーパ角度を示していることを捉えて、引用例には引張装置のくさびシューのテーパ角度を約50度ないし約55度に構成する技術的思想が開示されているということはできない。

「引用例には、くさびシューのテーパ角度の数値を限定することについての技術的意義も、実施例を示す図面に記載された上記角度についても、全く記載されていないことが認められる。」

「以上のような引用例の記載によれば、引用例記載の発明の目的が、専ら本願発明の要旨にいう「圧縮可能な緩衝要素の改良にあり、くさびシューを含む「摩擦緩衝部材」の改良でないことは明らかである。したがって、引用例記載の発明の実施例として描かれている別紙図面BのFIG.1FIG.3あるいはFIG.11のくさびシューのテーパ角度が、問題意識をもって正確に記載されていると考えることはできない。そもそも、特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。

「もっとも、引用例に開示された技術的事項は、本出願当時の技術水準を背景として当業者において認識し理解するところに基づいて判断されるべきものであるから、本出願当時、引張装置のくさびシューのテーパ角度を約50度にすることが当業者に広く知られた技術的事項であれば、引用例にその角度について格別の記載や示唆が存しなくとも、当業者はその図面から引用例記載の発明においてもその角度を約50度に設定していると認識するといえるが、本出願当時の技術水準を上記のように認定することのできる証拠は存しないから、この点から引用例にはその角度を本願発明と同一の角度としたものが開示されているということはできない。」

2.2 ゴルフクラブ用ヘッド事件
(知財高裁平成18年(行ケ)第10342号 審決取消請求事件)

本裁判例では、ゴルフクラブ用のヘッドに関する発明についての進歩性が争われた。そこで、裁判所は以下のように判断した。


本件発明の第1図


本件発明の第2図


引用例
 

1(引用例)の図面に描かれたゴルフクラブの上記凹部に係る表示上の曲率が、当該表示上のゴルフクラブに対応するゴルフボールの外径曲率として想定される範囲の曲率より大きいとしても、そのことのみから、甲1考案の上記凹部の曲率が、使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率であると即断し得るものではない。

「甲1は、特許公告公報であり、甲1図面は、当該公告に係る特許出願の願書に添付された図面であるところ、一般に、特許出願や実用新案登録出願の願書に添付される図面は、明細書を補完し、特許(実用新案登録)を受けようとする発明(考案)に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図にとどまるものであって、設計図と異なり、当該図面に表示された寸法や角度、曲率などは、必ずしも正確でなくても足り、もとより、当該部分の寸法や角度、曲率などがこれによって特定されるものではないというべきである。

「特許(実用新案)公報等の記載から、そのようにいうことができるとするためには、本件考案がそうであるように、明細書(特許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲を含む。)に、当該凹部の曲率がゴルフボールの外径曲率よりも大曲率である旨が記載されているか、又は、少なくとも、明細書に記載された発明(考案)の課題、目的又は作用効果(例えば、「フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを防止すること」)等から、そのような構成を採用していると理解されるものであることを要するというべきである。」


3.特許図面の技術的事項の記載を肯定した裁判例(浚渫用グラブバケット事件)
3.1 事案の概要
本件は、被告の特許第3884028号「平底幅広浚渫用グラブバケット」について、原告が行った無効審判請求を棄却する審決の取消を求めた事案である。

本事案では、引用例3~5の図面には、本件特許発明の「シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合、シェルの幅内寸の距離が60以上」という、「寸法」、或いは「割合」に関する技術的事項(構成1)が開示されているか否かが争われた。

無効審判では、特許庁は、上述の裁判例と同様の「特許図面は設計図面のような正確な寸法、割合、角度で描かれているとは限らない。」という解釈を採用し、「請求人が提出した引用例3ないし5の各図面には本件構成1が開示されているかのように見受けられるが、特許出願の際に願書に添付される図面は設計図ではなく、説明図にとどまり、これにより各部分の寸法や角度等が特定されるものではない。」とし、引用例3ないし5には本件構成1の技術的事項は記載されていないとして、審判請求人の請求を棄却し、特許権を維持する審決を下した。

これに対して、知財高裁は、引用例3の実用新案登録請求の範囲の記載を参酌して、引用例3の図面に記載されている技術的事項を解釈し、当該引用例3の図面には本件構成1に関する構成が開示されているとして、審決を取り消す判決を下した。

本件発明の内容(特許第3884028号)
シェル1を軸支するタイロッド4・4の軸心間の距離(A´)を100とした場合、シェル1の幅内寸の距離(B´)を60以上とすることにより(本件構成1)、掴み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げて作業能率を高めることができる。

本件発明の図1

本件発明の図2


引用例3の内容



実用新案登録請求の範囲

請求項1:シェルの口幅を開幅よりも大きく形成したことを特徴とするグラブバケット
考案の詳細な説明の記載

【0001】
本考案はグラブバケットに関し、特には砂利、砂の荷揚げや荷降ろし等を行うグラブバケットにおいて、開幅よりも口幅を広い形状とすることにより、安定性を高め、容重比を小さくして操作性を高めたものである。
【0012】
シェル1の口幅方向の長さLは、開幅方向の長さWと同等又はそれ以上の長さを有して寸法的には従来のものに比べて著しく口幅が大きいのが特徴である。したがって、開幅に対して口幅が大きいから、安定性が高く、作業中に転倒することもなく、しかも掴み量が大きい。
引用例3の図2

引用例3の図3





引用例3の図7


裁判所の判断

「(引用例3について)() 図2及び7
図2は、本考案に係るグラブバケットがシェルを開いた状態を示す斜視図であって、シェルの開幅Wに対して口幅Lが大きい状態が図示されている。また、図7は、従来のグラブバケットがシェルを開いた状態を示す正面図であって、シェルの外側がシェルを軸支する軸よりも外側に張り出している状態が図示されている。

引用例3における本件構成1及び2の開示について
() 前記(2)()によると、従来のグラブバケットにおいて、シェルの外側がシェルを軸支する軸よりも外側に張り出している状態が図示されており、引用例3に記載された発明においても同様の構成を有しているものといえる。
そして、引用例3の図2及び7からすると、シェルは、軸を回動軸として回転し、グラブバケットが砂利や砂を取り込むのであるから、グラブバケットの開口の幅(開幅)は、シェルとアームが回動可能に連結される2つの軸間の距離(以下「軸間の距離」という。)よりも広いということができる。
開幅が軸間の距離よりも狭い状態としては、シェルの動作時において、シェルが砂利や砂などの取り込む対象に対して閉じた状態から僅かしか開いていない状態か、グラブバケットの構造自体において、シェル同士を連結する軸とシェルの先端である口金までの距離が極端に短い構成を有する状態のいずれかであるか、あるいはその双方が想定されるところ、前者の状態の場合、シェル内に取り込むことのできる対象物がシェルの容積に対して少なくなるから、シェルの動作時における一過性の状態としてはともかくとして、このような構成を採用することは通常想定し難いものである。また、後者の状態の場合、シェルの容量自体が少なくなるから、やはり、このような構成を採用することは通常想定し難いものである。
したがって、引用例3には、グラブバケットの開口の幅(開幅)が、軸間の距離よりも広い構成が開示されているということができる。
() 引用例3に記載された発明において、アームが回動可能に連結された2つの軸間の距離は、本件構成1の「シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離」に相当するところ、前記(2)エのとおり、引用例3に記載された発明は、シェルの口幅Lを開幅Wよりも大きく形成したものであるから、引用例3には、シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離より、シェルの口幅方向の長さを長くした構成が開示されているものということができる。もっとも、幅内寸は、シェルの板厚分程度、長さLよりも短くなるが、引用例3は、砂利や砂などを対象としたグラブバケットに係る文献であることからすると、板厚はシェルが変形しない程度の強度を保持していれば薄い方が優れているということができるから、少なくともシェルの幅内寸はシェルの口幅方向の長さの60%以上に相当するものということができる。
() この点について、被告らは、引用例3には、シェルの幅内寸の距離や本件構成1に関する記載や示唆はないし、引用例3に記載された発明の課題とシェルの幅内寸の距離とは無関係であるから、添付図面からシェルの幅内寸の距離や本件構成1に関する技術思想が得られるものではないと主張する。
しかしながら、引用例3に記載された発明は、シェルの開幅Wよりも口幅Lを広い形状とすることにより課題を解決するものであるから、引用例3の添付図面は、シェルの開幅Wよりも口幅Lが広い形状を有することを前提として作成されていることは明らかであって、引用例3には、シェルの幅内寸の距離やタイロッドの軸心間の距離に関する記載は存在するものというべきであり、引用例3に、本件構成1と同様の構成が開示されている以上、被告らの上記主張は採用できない。
() 以上によると、引用例3には、シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合、シェルの口幅方向の長さは100を超える構成が開示されているから、シェルの幅内寸の距離を60以上とする本件構成1が開示されているというべきである。
() 同様に、前記()によると、引用例3には、本件構成2が開示されているということができる。
(3) 引用例4及び5について
引用例4(甲3)は、グラブバケットに係る考案に関する登録実用新案公報であるところ、引用例4には、各種の作業に応じて使用するバケットを交換する際の手間の軽減及び作業効率を向上させることを解決課題とした考案が開示されているが、シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離及びシェルの幅内寸に係る知見は開示されていない。
引用例5(甲14)は、グラブバケットに係る発明に関する公開特許公報であるところ、引用例5には、下部フレームに搭載した無線機のアンテナやオイルタンクの給油口に中間可動フレーム下面が接触することによる破損を防止することを解決課題とした発明が開示されているが、引用例4と同様に、シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離及びシェルの幅内寸に係る知見は開示されていない。
したがって、引用例4及び5の添付図面に、本件構成1と同様の構成が図示されているとしても、これらの添付図面が、シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離及びシェルの幅内寸の距離について、設計図のような正確な縮尺で作成されたものではない可能性を否定できない以上、引用例4及び5において、本件構成1が開示されているとまでいうことはできない。」

4.まとめ
以上のように、上記の「浚渫用グラブバケット事件」では、裁判所は、引用例3の特許図面にはシェルの幅内寸の距離やタイロッドの軸心間の距離に関する記載は存在すると、原告の請求を認める一方、引用例4、5については、これを否定した。
つまり、裁判所は、引用例4、5については、従来の「引張装置事件」或いは「ゴルフクラブ用ヘッド事件」と同様に「特許図面は模式図であり、設計図面のような正確な寸法、割合、角度で描かれているとは限らない。」との立場から、特許図面の技術的事項の記載を否定した。
一方で、引用例3については、当該引用例3に記載の発明がシェルの開幅Wよりも口幅Lを広い形状とすることにより課題を解決するものであることに鑑み、引用例3の添付図面は、シェルの開幅Wよりも口幅Lが広い形状を有することを前提として作成されていることは明らかであるとして、引用例3にはシェルの幅内寸の距離やタイロッドの軸心間の距離に関する記載は存在すると判断した。

以上より、無効審判請求人の立場としては、原則としては、従来の裁判例の解釈に従い、特許図面のみに記載されているような技術的事項については、特許図面に頼っても全く勝ち目がないこと考えるべきある。
そのうえで、特許性否定の根拠とする引用例に係る発明が、引用例3のごとく「寸法」や「割合」や「角度」といった事項に関する発明であるというような特別な事情がある場合には、「特許図面には技術的事項が記載されている」と主張することも可能であると考える。

パテント2008 8月号 高瀬彌平氏「判決で学ぶ進歩性判断の定石(その9)」参酌
 
以上
(弁理士 森本聡)

<a href="http://samurai.blogmura.com/benrishi/" target="_blank">にほんブログ村 弁理士</a>