2013年5月31日金曜日

発明を公にした後に特許出願する場合の手続きについて

完成した発明について特許権を得るためには、発明が所定の特許要件を満たしている必要があります。


この特許要件については特許法に明確に規定されており、代表的なものとしては、


■ 発明が新しいこと(新規性)、
■ 発明に飛躍性があること(進歩性)

などを挙げることができます。


つまり、完成した発明について特許を受けるためには、最低でもその発明が従来には無い新しいものであり(新規性があり)、且つ飛躍性があること(進歩性があること)が必要です。


したがって、原則としては、発明を公に発表してしまうと、その発表時点で発明は新規性を失い、その後に特許出願しても、その発明について特許を受けることはできません。



新規性の判断方法


新規性を失ったか否かは、「秘密保持義務の有無」を基準に判断されます。


つまり、秘密保持義務の無い人(一人でも)に発明の内容を伝えると、その時点で、その発明は公となり、新規性を失います。
逆に言うと、百人に発明の内容を伝えても、その百人全員に秘密保持義務が課されている場合には、その発明は公になりません。


新規性喪失について


上記のように、特許出願前に発明の内容が公となると、新規性が失われたということになるため、特許権を得ることはできません。


しかし、この要件を厳密に解釈していくと、却って産業の発達を阻害するおそれがあります。


例えば、特許出願前に学会で発表しなければならない場合、展示会に出品しなければならない場合などです。


学会で発明と同じ内容を発表したり、展示会に発明を使った製品を出品したりした後では、絶対に特許権が得られないということになると、発明者の意欲が削がれてしまいます。


このため、特許法では「新規性喪失の例外」という規定が設けられています。


この「新規性喪失の例外」とは、要は「特許出願前に発明を公にしたことを正直に自白したら、許してあげますよ(新規性を失ったとは判断しませんよ)。」という救済制度です。


新規性喪失の例外の適用を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。

■ 発明を公にしてから、6ヶ月以内に特許出願すること。

■ 特許出願時に、新規性喪失の例外の適用を受けたい旨を願書に記載すること。



以前は、新規性喪失の例外の適用を受けるためには、特定の学会で発表した場合や、特定の展示会に出品した場合や、新聞や雑誌などに公表した場合などに限られていました。


しかし、現行の特許法では、「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して、発明が公になった場合」には新規性喪失の例外の適用を受けることができるようになっています。


つまり、発明を使った製品を販売した場合でも、販売から6ヶ月以内であれば、新規性喪失の例外の適用を受けて特許出願することができるようになっています。




で、今回、気になった記事は、愛知の大学生が中学二年生であった2008年に完成した「テレビ消音装置付き電話機」で特許を取ったというものです。

毎日新聞の記事はココです。


この記事の中に「この装置は08年11月の「あいち少年少女創意くふう展」でグランプリの文部科学大臣奨励賞に輝き、その直後にクラブ指導員の推薦で特許を出願した。」という一文があります。


この記事の一文に従えば、発明の内容は「あいち少年少女創意くふう展」に応募され、審査を受けてグランプリの文部科学大臣奨励賞を取り、その後に特許出願されたということになります。


してみると、特許出願前に行われた賞の発表や、「くふう展」への応募時には、既に発明の内容が「公知」となっていたおそれがあります。


特許電子図書館のデータベースを使って「発明者」で検索すると、この大学生の名前では2件の特許出願(出願公開公報)がヒットします。しかし、いずれの特許出願でも「新規性喪失の例外」の適用を受けていません。


「新規性」や「新規性喪失の例外」の観点から見ると、「創意くふう展」の応募用紙等には発明の具体的内容は記載されていなかったのか、賞を審査した方々に秘密保持義務が課せられていたのか、文部科学大臣奨励賞の発表時に、発明の具体的な内容は全く発表されていなかったのか、などといった点が心配になってしまいます(天邪鬼でスイマセン)。



以上です。
(弁理士 森本聡)


当ブログでは内容を分かり易く発信することを優先しております。
したがいまして、法律的には正確とは言えない表現を用いている場合もあります。

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2013年5月29日水曜日

「シャンパン」と商標の関係

今回のテーマは、お酒の「シャンパン」の話です。


まず、「シャンパン(CHAMPAGNE)」は、発泡性ワインの総称でもなければ、発泡性ワインの普通名称でもありません。


「シャンパン」はフランス国内の地名です。

また、お酒の「シャンパン」とは、フランスの(シャンパーニュ地方)の発泡性ぶどう酒(スパークリングワイン)を示す大ブランドです。

このような大ブランドである「シャンパン」を保護するため、我国の商標法や不正競争防止法には特別に種々の規定が設けられています。


商標法による保護について

まず、この種のぶどう酒の産地の名称は、商標法で不登録商標の一つとして挙げられています(4条1項17号)。

具体的には、「特許庁長官が指定したぶどう酒の産地名を、その産地以外の地域を産地とするぶどう酒に付けて商標登録出願しても登録しませんよ。」という規定があります。

(つまり、「「大阪」をぶどう酒の産地名として特許庁長官が登録した場合には、大阪産以外のぶどう酒に「大阪」と付けて商標登録出願しても登録しませんよ。」という規定です。)


また、「世界貿易機関の加盟国で、その地域以外のぶどう酒に使用することが禁止されている商標を、その産地以外の地域を産地とするぶどう酒に付けて商標登録出願しても登録しませんよ。」という規定もあります。
(つまり、「「シャンパン」はフランスでシャンパーニュ地方以外の産地のぶどう酒に付けることは禁止されているため、これをシャンパーニュ地方以外の産地のぶどう酒に付けて商標登録出願しても登録しませんよ。」という規定です。)

以上のように、指定商品「ぶどう酒」について商標「シャンパン」を出願しても、絶対に権利を得ることはできないようになっています。


また、ぶどう酒以外の商品を指定商品・役務とする「シャンパン」を含む商標は、公序良俗違反だと判断されることもあります。

過去には、飲食物の提供等を指定役務とする「シャンパンタワー」や、シャンパン酵母を用いて醸造したビールを指定商品とする「シャンパンビール」や、ウーロン茶を指定商品とする「シャンパン烏龍」などが、一旦は登録となったものの、その後に異議申立や無効審判によって商標登録が取り消されたり、無効とされています。


但し、異議申立で商標「シャンパンゴールド」の商標登録が維持された例があります。
具体的には、「化粧品をはじめ各種商品に採択される色彩の一に「シャンパンゴールド」と称される色彩が存し、それを表す語として当該文字が普通に使用されているのが実情である。」として、「肌にシャンパンゴールド色の色調を付加する効果を有する日焼け止め用化粧品」を指定商品とする登録商標が異議申立で維持された例がありました。


不正競争防止法による保護

不正競争防止法では、「ぶどうを原料又は材料とする物の原産地の名称であって、普通名称となったものであっても、著名表示冒用行為や周知表示混同惹起行為、原産地表示誤認惹起行為などの対象となりますよ。」という規定があります。

つまり、「ぶどうを原料とする物(ワインなど)の原産地の名称(例えば、シャンパン、シャンパーニュ)が普通名称化したとしても、勝手に使うと、不正競争防止法の不正競争行為になりますよ」という規定です。


これ以上書くと、シャンパンが不味くなりそうです。


以上です。
(弁理士 森本聡)

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2013年5月28日火曜日

商標「北斎事件」について -審査便覧改訂後に「歴史上の著名な人物名を含む商標」が公序良俗違反に該当するか否かが争われた初めての裁判例-

今回取り上げる事案は、歴史上の著名な人物名である「北斎」を含む商標が、審決取消訴訟を経て登録になったというものです。


先に書いた「浚渫用グラブバケット事件」と同様に、私は代理人としてたずさわりました。


なお、この裁判は、平成25年4月11日発行の判例時報2176号にも取り上げられました。
本判決は、歴史上の人物名を用いた商標の商標法第四条第一項第七号該当性を否定した事案として事例的意義を有するので、ここに紹介する次第である。


商標の構成は以下の如くであり、「北斎」の漢字を筆文字風に縦書きにした文字部分と,その左側中央やや下に配置された、上方に黒地上に白色で山様の形を象り、その下方に黒白の横線様の模様を配した四角形の図形部分とで構成されています。




事案の経緯等は、判決文にあるので詳しく説明しませんが、要は、審判段階での原告側の以下のような主張を取り上げて、本願商標は商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものではない判断された事案です。


審判段階での原告の主張について

特許庁審判長の証拠調べ通知書内で「一般に歴史上の人物の出身地やゆかりの地においては、その特産品や土産物に、その者の名称等を表示して、観光客などを対象に販売されている事情があるが、「北斎」についても、お土産用の「絵はがき」「手拭い」「Tシャツ」「ボールペン」「巾着」などに「北斎」の名称が用いられている事実がある。・・・そうすると、「北斎」の名称は、本願商標の指定商品を取り扱い者によって使用される可能性が極めて高いものであることが認められる。」と認定しました。


これに対して原告(審判請求人)は、

①本願商標は「北斎」の漢字を特定の書体で縦書きし、その左側部に朱印の印が押された構成よりなる結合商標であって、それ以上でもそれ以下でもない。

②本願商標に係る標章は、これら縦書き文字と印の二者で構成されるものであって、単純に「北斎」の名前を独占しようとするような類いのものでは全くない。

③本願商標の効力が土産物に及ぶのは、本願商標と完全に同じ商標、あるいは本願商標を構成する二つの部分(漢字文字,本件図形)の配置に変更を加えてなる商標などのように、本願商標と類似する商標を土産物に付した場合などの極めて特異なケースに限られるものである。

④これらの原告の主張は、実質的に、本願商標の効力範囲が、漢字文字の「北斎」のみからなる商標には及ばないことを自覚し、これを宣言するものである。

従って、本願商標が登録査定を受けた場合にも、上記のような特異なケースを除いては、葛飾北斎の出身地や、ゆかりの地において販売される土産物に、本願の商標の効力が及ぶことは絶対に無く、本願商標の商標登録を認めることが、「北斎」の名称を使用した観光振興や地域おこしなどの公益的な施策の遂行を阻害するとの懸念、或いは本願商標が公正な秩序を害し、社会公共の利益に反するおそれがあるとの懸念も解消したものと確信する。

以上より、審査便覧に挙げられた「当該歴史上の人物明の利用状況と指定商品・役務との関係」に係る事情(4)についても、本願商標は、出身地や、ゆかりの地に与える影響は皆無であると考える。」と主張しました。


裁判所は、

「原告が本件指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は,「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなる構成に限定されると考えられることからすれば,当該公益的事業の遂行に生じ得る支障も限定的なものにとどまるというべきである。」

「原告による本願商標の出願について,上記のような公益的事業の遂行を阻害する目的など,何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし,その他,本件全証拠によっても,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。」

「以上のとおり,本願商標の商標登録によって公益的事業の遂行に生じ得る影響は限定的であり,また,本願商標の出願について,原告に不正の目的があるとはいえず,その他,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない本件においては,原告が葛飾北斎と何ら関係を有しない者であったとしても,原告が本件指定商品について本願商標を使用することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものとまでいうことはできない。」

したがって,本願商標は,商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものではない。

と判断しました。


平たく言うと、「原告が『本願商標は「北斎」+「図形」であり、「北斎」のみに対しては禁止権の効力は及ばない。』って自白してるんだから、葛飾北斎の出身地やゆかりの地で販売される土産物のTシャツなどに「北斎」って付けても本願商標の効力は及ばないし、また、別に不正の目的で商標権をくれってことでもなさそうだから、本願商標は公序良俗には該当しない。」ってことのようです。


歴史上の人物名を含む商標についての実務上の指針(あくまで私見です。)

(1)出願経過禁反言の法理の主張が必須。

歴史上の人物名を含む商標」が、公益的事業の遂行に悪影響を与えるものでは無いことを明確にするためには、上記のように出願経過禁反言の法理の主張を行って、歴史上の人物名のみからなる商標には、登録後の本願商標の禁止権の効力は及ばないことを、出願人自らが自白することが必須であると考えます。


(2)下から目線で主張する。

「本願商標が登録になったときに、それが公益的事業の遂行に悪影響を与えるというなら、公益的事業の行う奴に通常使用権を与えてやるよ。」というような上から目線の主張は絶対にいけません(公序良俗に関する審決取消訴訟で、こんな主張をして敗訴している事案を見たことがあります(世界遺産関係でした))。

裁判官の心証を悪くするだけです。
「不当の目的がある」との心証を裁判官等に与える可能性もあります。

むしろ、本事案のように、出願人の側から、出願経過禁反言の法理を自白し、本願商標が登録になっても公益的事業の遂行に悪影響を与える虞は全く無い旨を明確にすることが肝要かと思います。


(3)「歴史上の人物名のみからなる商標」の登録は無理。

このような「歴史上の人物名のみからなる商標(例えば、「北斎」のみ)」を登録すると公益的事業の遂行に与える不利益は多大であるため、登録査定を受けることは困難であると考えます。

また、「歴史上の人物名のみからなる商標」では、上記のような出願経過禁反言の法理の主張もできません。

逆に言うと、歴史上の人物名+α(歴史上の人物名を含む商標)であれば、今後も登録される可能性はあるものと考えます。


(4)「歴史上の人物名を含む商標」の権利範囲が狭くなることは止む終えない。

上記のように、出願経過禁反言の法理の主張をするため、禁止権の範囲が限定されるためです。
この点は、出願前に出願人(クライアント)に説明しておくことが必要かと思います。


判決後の感想

■ 裁判官は、審査便覧の規定を完全に無視します。

当たり前の話ですが、裁判官は「法律」に従って判断します。審査便覧は、特許庁が作ったもので「法律」では無いので、裁判官の判断基準とはなり得ないようです。

■ 他の登録例を挙げても無駄。

本事案は、新たに改訂された審査便覧の規定に基づいて公序良俗と判断された事例であったため、本願出願後に出願されて先に登録査定を得た「広重」や「歌麿」といった後願既登録商標の例を挙げて、改訂後の審査便覧の規定に基づいても「北斎」は「広重」や「歌麿」と同様に登録される旨を主張しましたが、全くの無駄骨でした。

改訂後の審査便覧の具体的な規定内容は、歴史上の人物名を含む既登録商標でしか、我々一般人(特許庁以外の人間)は把握することはできないと思うのですが・・・。

以上
(弁理士 森本聡)


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2013年5月24日金曜日

風俗サービスと商標


今日は金曜日なので緩~い話題です。


商標登録出願の際には、願書に、商標(マーク)と、その商標を何に使うかを記載します。

つまり、商標権が欲しい「商標」と、指定商品又は指定役務(サービス)とを記載します。

出願時の指定商品や指定役務の書き方は、厳密に決まっているわけではありません。

しかしながら、国際分類表に従って指定する、或いは「商品・役務名リスト」という特許電子図書館のデータベースを参照しながら指定することが多いというのが実情です。



で、話しは逸れますが、最近、大阪市の橋下市長が「米軍は風俗店をもっと利用すべきだ。」というような話をされました。

まあ、彼の意見の賛否は別にして、私は今まで風俗サービスと商標登録との関係について深く考えたことはありませんでした。

お客さんから「風俗店の店名を商標登録してくれ。」というような生々しい依頼を受けたことは無かったもので・・・。

お客さんから「うちの登録商標と、同じ名前の風俗店があるんだが、何とかならんのか?」という相談はありましたが・・・(不正競争防止法の問題です)。


私は今まで風俗に関連するサービスを「指定役務」に記載して商標登録出願しても、商標権が得られることは無いものと思っていました。

これは、商標法第4条の「商標登録を受けることができない商標」の第1項第7号に「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」とあるからです。

しかし、この規定は「『商標』が一般的道徳観念に反したら登録しませんよ」ということであり、「『指定役務』が一般的道徳観念に反したら登録しませんよ。」ということではないようにも読めます。

商標審査基準を読んでもはっきりしません。


自分では判断できなくなったので、先の「商品・役務名リスト」で「異性」をキーワードにして検索してみました。


すると、・・・ありました。

風俗サービスを指定役務とする商標の登録例が見つかりました。

商標登録第4796439号
登録商標(標準文字)】くりーむレモン
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
 第45類 
個室において異性の客に接触する役務の提供

派遣による人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供


因みに、この出願を審査した特許庁の審査官は女性です。


私の調べた限りでは、このような風俗サービスに関連するサービスを指定役務に含む商標は、他に見つけることはできませんでした(有料のデータベースを使えば、簡単に見つかると思いますが・・・。)。

一方、商標登録第4919156号(【登録商標(標準文字)】東スポ裏通り)では、出願時には「個室において異性の客に接触する役務の提供に関する情報の提供」が指定役務に含まれていましたが、審査過程でこの役務は削除されています。

したがって、風俗サービスを指定役務に含む商標が常に登録されるというわけでもなさそうです。

なお、最近では、
商願2013-24422
商標:男祭
指定役務:派遣による人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供
が出願されています。

なお、「異性の紹介」は「Dating services」として、「結婚相談所における異性の紹介」は「Marriage agencies」として、国際分類で認められているみたいです。まあ、このレベルなら理解できるのですが・・・。



以上です。

(弁理士 森本聡)


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2013年5月23日木曜日

商標権侵害で『ステーキけん』が『ステーキけんしろう』に対する法的措置を表明


スポニチAnnex、およびロケットニュース24によると、先日、ファミリーレストラン『ステーキハンバーグ&サラダバー けん』が、『ステーキハンバーグ&サラダバー けんしろう』に対して、商標の使用停止を求めて法的措置の準備をしていることを表明したそうです。


記事によると、『けんしろう』は、かつて、「けん野々市店」として、『けん』の運営会社である株式会社エムグラントフードサービスとフランチャイズ(FC)契約していた店舗だそうです。

今年3月のFC契約解除後は『ステーキハンバーグ&サラダバー けんしろう』に店舗名を変更したそうです。


そして、この変更後の『けんしろう』の看板等が、株式会社エムグラントフードサービスが保有する登録商標(登録第第5160679号)と類似しているとして、『けん』が商標権侵害で訴えるということらしいです。



コチラからお借りしました。


記事では、商標権侵害となっていますが、実際の訴訟では不正競争防止法違反(2条1項2号(周知表示誤認惹起行為))を理由とする差止め請求権の行使も考えられます。



実際の裁判ではどうなるかわかりませんが、自分なりの結論を出してみました(あくまで私の一意見にすぎません)。

ます、『けん』の登録商標と、『けんしろう』の商標を比べてみると、

両商標は、

■ 円形の中央部分と、これを囲むように配された円リング状の外周部とからなる二重円形状の全体形状を備える点、

■ 全体形状に占める中央部分と外周部の径寸法の割合、

■ 外周部に配された「Hanburg ・・・Steak」の文字の書体、位置、大きさ、

■ 「けん」の文字の書体

などの点で一致します。


一方、両商標は、

■ 登録商標『けん』では、中央部分に「けん」の文字が配されているのに対して、『けんしろう』では「けんしろう」の文字が配されている点(相違点1)、

■ 登録商標『けん』では、中央下方に「since 2006」の文字が配されているのに対して、『けんしろう』では、そのような文字が無い点(相違点2)、

■ 登録商標『けん』では、「ステーキハンバーグ&サラダバー」の文字が中央右寄りに配されているのに対して、『けんしろう』では左下側に配されている点(相違点3)、

などで相違します。


上記の相違点1~3について検討すると、

登録商標『けん』の「since 2006」の文字は、中央の「けん」or「けんしろう」の文字に比べて極めて小さく目立たないこと、「ステーキハンバーグ&サラダバー」の文字も、中央の「けん」or「けんしろう」の文字に比べて小さく目立たないことなどに鑑みれば、相違点2、3が両商標の識別性に与える影響は小さいものと考えられます。


残るのは相違点1ですが、商標『けんしろう』においては、「けんしろう」の「けん」の文字を「しろう」の文字よりも大きく(文字の大きさで2倍以上)示していることに鑑みれば、商標「けんしろう」においても「けん」が「しろう」よりも目立つものとなっていることは論を俟ちません。


してみると、一般需要者は商標「けんしろう」を見たとき、登録商標『けん』の商標権者と何らかの関係(資本関係やFC関係)があると誤解する可能性があります。


また、「けん」と「けんしろう」の違いこそあれ、二重円形状といった全体形状から、外周部に記載されている文字の書体、位置、大きさ、「けん」の書体、「ステーキハンバーグ&サラダバー」の有無といった細部に至るまで一致していることに鑑みれば、商標「けんしろう」は登録商標「けん」に化体した信用にフリーライドする意図や、ダイリュージョンさせる意図をもって選択されたものであると判断される可能性もあります。


はじめ、「けん」と「けんしろう」と聞いたとき、「そんなもん商標権侵害で訴えても無理でしょ」と思いましたが、ここまで一致点が多いと、外観類似であるとして、看板の使用差止めが認められる可能性は十分にありそうです。


尤も、上記の見解は、私個人の考えであり、実際の裁判では真逆の結論が出るかもしれません。


関連記事

■ 韓国で「ダサソー」が「ダイソー」に類似していると判断された事例について(商標の類否判断の基本的な考え方)


以上
(弁理士 森本聡)


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2013年5月22日水曜日

特許の標準化について

ここ数年、「標準化技術」や「必須標準特許」という言葉をニュースで耳にするようになりました。

「そんな言葉、聞いたことない」という方でも、アップルとサムソンが、特許問題で喧嘩しているという話は聞いたことがあると思います。

このアップルとサムソンの争いにも「標準化技術」や「必須標準特許」という話が絡んできます。


では、「特許の標準化」とは、どういったことでしょうか?

特許権とは、特許権者に独占排他的に特許発明を実施することを認める権利です。
つまり、特許権が付与されると、特許権者以外の第三者は、特許発明を特許権者に無断で実施することはできなくなります。

しかし、その特許発明が、誰でも使いたくなるような基本的なものである場合、或いは、その特許発明が、誰でも使えるようにしなければ社会の進歩発展を阻害する程度にまで必然性がある場合には、その特許発明は、その分野の標準技術ということになります。
換言すれば、その特許発明は「必須標準特許」ということになります。



このように特許発明が「必須標準特許」となっているにも拘らず、他社に対して極めて高額なライセンス条件を提示し続けるていると、我国を含む各国において、独占禁止法違反で処罰される可能性があります。



実際、欧州でサムソンがアップルを特許侵害で訴えていた事件では、サムスンが保有する通信技術に関する特許発明は「必須標準特許」であると認定されました。

そして、サムソンの「必須標準特許」の扱いが独占禁止法の違反にあたる疑いがあるとして、欧州連合から提訴されました。

さらに、独禁法違反だから特許権は無効であるとして、サムソンのアップルに対する訴えは退けられました。



欧州連合では「必須標準特許」となると、技術の広汎な普及を目的として、「公平で妥当かつ差別のない」(Fair, Reasonable and Nondiscriminatory:FRAND)なやり方で他社へのライセンス提供を行うことが求められます。


サムスンは1998年に、欧州電気通信標準化機構に対し、同社が保有する通信関連技術の特許を、このFRANDの原則に沿ってライセンス提供すると約束していました。

ところが、サムソンはアップルに対して、これらの通信関連技術の特許の侵害を根拠に、iPhoneなどを対象とした販売差し止めを求める訴えを起こしました。
その結果、独禁法違反として、敗訴という結果になりました。


一つの企業がその「標準」や「標準の周辺」に関する特許権を独占している場合には、その企業は、他企業との差別化を図ることで、利益を大きく伸ばすことができます。

また、他企業との間で、有利な条件でライセンス契約を締結することも可能です。

しかし、これをやりすぎると、ブーメランのように自分に帰ってくるということです。

以上
(弁理士森本聡)


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2013年5月20日月曜日

「デザイン」と「意匠」の違い

先週の土曜日に、クライアント様が企画したデザインを学ぶ研修会に参加させて頂きました。



「明治村」で明治~昭和初期の近代建築を見学し、その後に谷口吉生氏が設計した「豊田市立美術館」を見学しました。


西洋建築を取り入れて和洋折衷で建てられた明治や大正時代の建築物、或いは個性的な装飾が施されたフランク・ロイド・ライト氏による帝国ホテルの中央玄関。

個性的な装飾が施された帝国ホテルの中央玄関


そして、徹底した無駄や装飾を排したモダニズム建築である「豊田市立美術館」。

豊田市立美術館


これら「近代建築」と「モダニズム建築」のギャップは、「建築」を学んだことが無い私にも「建築技術の進歩発展」「素材の進歩発展」「空間の使い方」などという言葉では足りないほどのダイナミックな変化が、現在進行形で建築の分野で起こっていることを教えてくれるものでした。


そして、この研修会のときに、ふと以下のような言葉が頭に浮かびました。



「デザイン」って、意匠法の「意匠」と違うんだ』と。



意匠法を学んだ方はご存知だと思いますが、意匠法上の「意匠」とは「物品の美的外観」です(意匠法2条1項)。
そして、意匠法上の「物品」とは「有体動産」であると解されています。



このため、「不動産」である「建物(建築)」のデザインは、意匠法の保護の対象にはなりません。
換言すれば、「建築のデザイン」を特許庁に意匠登録出願しても、特許庁は意匠権をくれません。


従って、意匠法の「意匠」とは、「デザイン」の一部ということになり、「デザイン」と意匠法の「意匠」とは別物だということになります。



加えて、「建築」という外観形状が大きいだけでなく、その中に設置され使用される多種多様な物品や内装等に多大な影響を与える、根本となる「建築のデザイン」を、意匠法は保護対象から排除しているということになります。



実際、建築の内装として使用される照明、扉、ベッド等のデザインは意匠法の保護対象となります。

また、使用時には不動産となるものであっても、販売時に動産的に取り扱われる、門柱、水門、石灯籠、墓石、家屋、滑り台、鉄塔、組み立て橋梁、組み立てバンガロー等は、意匠法上の物品と認められています。エスカレータ等も意匠法の保護対象となります。


しかし、残念ながら、本流とも言える「建築のデザイン」は意匠法の意匠対象として認められていません。


我々弁理士が、デザインの本流ではない傍流の「意匠」だけを扱っているにすぎないことを知り、残念な気がして、ちょっとショックを受けました。


なお、「建築のデザイン」は、著作権の保護対象となり得ます。
但し、それは下記のように「建築芸術」のレベルに達したときだと判示されています。

『シノブ設計』建築設計図事件
「建築の著作物」とは(現に存在する建築物又は)設計図に表現されている観念的な建物自体をいうのであり、そしてそれは単に建築物であるばかりでなく、いわゆる建築芸術と見られるものでなければならない。

建築芸術」と言えるか否かを判断するにあたっては、使い勝手のよさ等の実用性、機能性などではなく、もっぱら、その文化的精神性の表現としての建物の外観を中心に検討すべき

『ダルニエ・ダイン』事件
著作権法により「建築の著作物」として保護される建築物は、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、知的・文化的精神活動の所産であって、美的な表現における創作性、すなわち造形芸術としての美術性を有するものであることを要し、通常のありふれた建築物は、同法で保護される「建築の著作物」には当たらないというべきある。

一般住宅が同法10条1項5号の「建築の著作物」であるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。


以上
(弁理士 森本聡)

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2013年5月17日金曜日

特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(実務編)


基礎編では、損害賠償請求権の短期消滅時効である「知ったときから3年」の基本的な解釈について説明しました。


この実務編では、2つの裁判例に挙げて、裁判所が「知ったとき」をどのように判断してきたかを説明します。


なお、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の判例としては、昭和48年11月16日の最高裁判決があります。そこでは、加害者を知った時とは、不法行為に基づく損害賠償請求権について短期消滅時効の特則が定められた趣旨に鑑み、「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当である」と判示されています。


損害賠償請求権の時効消滅が認められた事例(H12.5.23 大阪地裁 本訴:平成7(ワ)1110信用毀損行為差止等請求事件 反訴:平成 7年 (ワ) 4251号 実用新案権侵害差止等請求事件)


本訴では、被告(乙(実用新案権者))による「原告(甲)のイ号物権の販売行為は被告(乙)の実用新案権、意匠権を侵害する」旨を告知・流布する行為が、原告(甲)の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知,流布に当たるとして、原告(甲)は被告(乙)に対し、それらの行為の差止め及び損害賠償を請求しました。


これに対する反訴では、反訴被告(本訴原告(甲))のイ号物件等の製造、販売等の行為が,反訴原告(本訴被告(乙))の実用新案権(及びその仮保護の権利)及び意匠権を侵害するとして、反訴原告(乙)が反訴被告(甲)に対し、イ号物件等の製造販売の差止め、損害賠償請求、不当利得返還請求等の請求をしました。


この裁判では、本訴原告(甲)に対する本訴被告(乙)の損害賠償請求権の時効消滅が争点の一つとなりました。つまり、裁判では、原告甲によるイ号物件の販売行為は、乙の実用新案権等の侵害行為に該当すると判断しました。そのうえで、裁判所は、被告乙の原告甲に対する損害賠償請求権の時効について以下のように判断しました。

甲6によれば、被告は、昭和六一年九月一〇日差出しの内容証明郵便にて、原告に対し、原告の販売に係る「マジックヒンジ」が、本件第一考案の技術的範囲に属する旨の警告をしたことが認められ、甲7によれば、被告は、平成元年三月二七日付けの書面にて、取引関係者に対し、最近、本件第一実用新案権に抵触する製品が多数出現している旨を通知したことが認められ、乙16及び17によれば、被告は昭和六〇年ないし六三年ころには、原告の製品カタログを入手していたことが認められ、甲5によれば、被告は、平成六年一一月ころ、ホームリビング紙に対し、被告の開き戸装置用蝶番に類似する商品が同社の実用新案権を侵害し不正競争防止法にも違反するので法的処置を考えている旨語っていたことが認められ、これに前記反訴状において各原告製品の販売開始時期をかなり特定して記載していることを併せ考えると、被告は、他社の製品動向に注意を払っており、したがって原告のイ号物件等の製造、販売についても、各行為がなされた当時から認識していたと推認するのが相当であり、そうである以上、それによって自らに損害が発生していることを認識していたものというべきである。

したがって、反訴提起日から三年を遡った平成四年四月二六日以前の原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権については、反訴提起時点において消滅時効が完成していたと認められる。

この点について被告は、本件のような場合には、相手方の生産、販売状況を訴訟提起の時点で正確に把握できないから、訴訟の過程で相手方から開示を受ける等してそれを知ったときから時効の進行が開始すると解すべき旨主張するが、不法行為の時効が進行するには必ずしも損害の全範囲又は損害額の全部を知ることは必要でなく、被害者が不法行為の存在とそれに基づく損害の発生を知ったことで足りることは前記のとおりであるし、損害賠償の対象はあくまで権利者側の逸失利益であって、侵害者の生産、販売の状況は権利者側の立証を容易にするための推定規定を利用する上で必要となる事実にすぎないから、提訴時において権利者に対し、権利者なりに認識した損害額の請求を求めることは特段不合理とはいえない。

以上のように、この裁判例では、警告書を送ったときを「損害を知ったとき」とは判断しておらず、
①「警告したこと」
②「取引関係者に通知したこと」
③「原告カタログを入手したこと」
④「ホームリビング紙に対して法的処置を考えている旨を語っていたこと」
⑤「反訴状で各原告製品の販売開始時期をかなり特定して記載していること」などの認定事実に基づいて、注意深く、本訴被告(乙)が「他社の製品動向の注意を払っている」と認定しました。
そして、この認定に基づいて、反訴提起時点から3年以上前の本訴原告(甲)の行為に対する損害賠償請求権については消滅時効が完成している、と判断しました。


損害賠償請求権の時効消滅が認められなかった事例(H13.12.21 東京地裁 平成12(ワ)6714 特許権 損害賠償請求事件、不当利得返還請求事件)

本裁判例は、原告が被告に対し、被告製品を製造、販売した被告の行為が原告の有していた特許権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償及び不当利得に基づく返還請求を求めた事案です。

この事案でも、被告に対する原告の損害賠償請求権の時効消滅が争点の一つとなりました。そして、この事案では、先の裁判例とは逆に、裁判所は損賠賠償請求権の消滅時効は進行しないと判断しました。

平成7年11月20日以降平成12年2月24日に至るまで原,被告間で、被告の製造、販売する製品(上記「石川島播磨技報」「油空圧化設計」「油圧と空気圧」記載の構造の設備を念頭に置かれた。)が本件特許権を侵害するか否かについての技術論争がされた。その過程で、被告は、一貫して、・・・本件発明の技術的範囲に含まれないと主張していた。また、・・・実際は段差寸法だけ移動している旨主張していた。

キ 平成9年3月17日、日本スタディツアー講演会が開催され、被告は「最近の圧延技術」について講演を行った。原告は、その際に、「RECENT HOT STRIP MILLS」と題する書面、製品カタログ「IHI AJC Downcoiler」及び「REFERENCE LIST」と題する納入リストを入手した。同書面中には、被告の製品のラッパーロールが板厚を超えてジャンピングして段差部を通過すること、本件特許出願公告後における同構造の製品26台(別紙4「製造販売目録」No.15ないし40)を含む昭和56年ないし平成12年までの製造販売実績(全42台)が記載されていた(甲4)。

ク 平成12年2月15日、原告から被告に対して、本件に関して和解の提案が持ち掛けられたが、同月24日、被告はこれを拒絶した。

原告は、被告に対し、平成12年3月10日付け内容証明郵便で、特許権侵害に基づく損害賠償請求をした。被告は、原告に対し、同月28日付けで、被告の製品は、本件特許権を侵害しない旨の回答をした。次いで、原告は、平成12年4月3日、本件訴訟を提起した。

(3) 上記認定した事実を基礎として判断する。

原告が、被告の本件特許権侵害行為(すなわち、被告が、本件特許出願公告の日以後に、別紙4「製造販売目録」記載のNO.15ないし40記載の各被告製品を販売した行為)について、損害賠償請求権を行使することが事実上可能な程度及び状況の下に,損害及び加害者を知ったといえるのは、平成9年3月17日であると解するのが相当である。

その理由は,以下のとおりである。

ア 確かに、本件特許の出願公告前における被告製品の販売行為については、昭和57年11月27日に原告が入手した同年9月被告発行の「石川島播磨技報」に、被告の製品におけるラッパロールのジャンプ量がストリップ段差部を超えているとの記載があること、及び原告が昭和58年2月に入手した被告発行の「油空圧化設計」昭和58年3月号に、同設備が・・・7基(同目録記載のNo.1ないし7のとおり)稼働しているとの記載があることから、原告は昭和58年2月ころ、これらの製品が販売された事実を知ったということができる

しかし、本件特許の出願公告日以降における被告製品の販売行為については、平成9年3月17日に、原告が被告製品の構造及び販売実績(全42台)の詳細を記載した被告作成に係る「REFERENCE LIST」と題する納入リストを入手するまでは、全く知る機会がなかったといって差し支えない。

被告製品は、その性質上、販売先の工場内でのみ使用され、通常、契約当事者以外の第三者は、販売の有無及び販売の対象となった製品の構造の詳細を知ることはできない。平成5年7月の「油圧と空気圧」24巻4号には、25台のAJCコイラを製作した旨の記載があるが、この記載から、原告が、被告の具体的な販売行為及びそれによる損害の発生を把握することは困難といえる。

平成7年11月20日ころから、原、被告間で、本件特許権侵害の有無に関して交渉が行われたが、原告は、被告の具体的な販売内容や被告製品の構造の詳細を把握していたわけではなく、むしろ、本件特許出願公告前に入手した文献に基づいて、特許権侵害に関する自己の意見を述べていたこと、これらの交渉に際して、被告は一貫して、被告の製品は,案内片が段付部の段差寸法程度の距離しか移動しない点で本件発明の技術的範囲に属しないと主張していたこと等の事実経緯によれば、裁判前の交渉が行われていたからといって、原告が被告製品の構造を知っていたということはできない。

以上のとおりであるから、原告は、別紙4「製造販売目録」のNo.15ないし40記載の被告製品の販売について、これを知った平成9年3月17日より3年を経過する前の平成12年3月10日付けで、被告に対し裁判外の請求をなし、さらに,その日から6か月を経過する前の同年4月3日に本件訴訟を提起したのであるから、消滅時効は完成していない。

以上のように、裁判所は、被疑侵害製品が入手困難であり内部構造の把握が困難である場合には、消滅時効は進行しないと判断しました。


まとめ

以上の2つの裁判例からもわかるように、消滅時効が進行するか否かというのはケースバイケースであり、単純に「警告書を送ったから、損害の事実と加害者(侵害者)を知った。」ということにはならないということです。


以上です。
(弁理士 森本聡)


関連記事

■ 特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(基礎編) 



参照:中村彰吾「知的財産渉外業務で留意すべき権利消滅時効について」
    パテント2003 Vol.56 No.5

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特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(基礎編)


「特許権侵害だ!!」と訴えるとき、将来の侵害に対しては差止請求権を行使し、過去の侵害に対しては不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)、場合によっては不当利得返還請求権(民法703条)を行使します。


損害賠償請求権の消滅時効については、民法724条に「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」と規定されています。


今回のテーマは、この損害賠償請求権の短期消滅時効である「知ったときから3年」の解釈についてです。


【誤った解釈について】

まず、「知ったときから3年」を、「特許侵害である旨の警告書や通告書が来てから3年経ったら損害賠償請求権は時効消滅し、その後に損賠賠償請求権が行使されることは無い。」と解釈されておられる方。完全な間違いです。


例えば交通事故では、不法行為である交通事故が起きるのは「事故の瞬間」だけです。
また、その加害者を知るのは、事故直後や、事故後に加害車両を陸運局に照会したときです。

以上のように、交通事故が起きるのが事故の瞬間の1回だけであること、加害者を知るのは事故直後等のように1回だけであることに鑑みれば、交通事故の場合には「損害および加害者を特定してから3年が経過すれば、被害者が加害者に損害賠償請求権を行使することはできなくなる」というのは正しい解釈であると言えます。


一方、特許権などの知的所有権の侵害においては、警告書等が特許権者から送られてきたのちも、侵害行為者が侵害行為を続行することがあります。この場合には侵害行為は続いているため、侵害行為者が侵害品を販売等するたびに、「新たな侵害行為が行われる」ということになります。


したがって、警告書等が侵害行為者の手元に届いた時点から3年が経過したら一概に損害賠償請求権が消滅するということはありません。なぜなら、警告書等を受け取ったあとに行われた新たな侵害行為を特許権者が知っているとは限らないからです。換言すれば、新たな「損害」が生じていることを特許権者が知っているとは限らないからです。


ですから、侵害行為が続いている場合には、特許権者は最低でも訴訟を提起したときから3年前までの侵害行為に対しては賠償請求権を行使することができます。つまり、「知ってから3年」の「3年前」を、「訴訟提起の日から遡って3年」と解釈して、この3年間の侵害行為に対しては、最低でも特許権者は損害賠償請求権を行使することができるということになります。


以上のように、「警告書が届いてから3年経ったら、損害賠償請求権は時効消滅し、その後は損害賠償請求権が行為されることは無い。」というのは、特許権侵害では誤った解釈であり、警告書が届いてから3年を経過したのちも、訴訟提起から遡る3年分の損害については、特許権者から損害賠償を請求される可能性があります。

尤も、警告書等が届き、直ちに侵害行為を止めた場合には、侵害行為を止めてから3年が経過したら損害賠償請求権の行使は無いと考えて問題ありません。この場合には不当利得返還請求権が残ります。


【結局は、時効の抗弁(短期消滅時効が主張されるか否か)の問題】

実際の侵害訴訟においては、警告書等の送付時期とは無関係に、過去の侵害行為の全て(3年以上)に対して、特許権者が損害賠償を請求することはよくあることです。

この場合に、侵害者側(訴訟の被告側)が時効について抗弁ときにはじめて「時効が進行しているのか否か」の争いが生じます。
換言すれば、侵害者側(被告側)が、「特許権者(原告)は、警告書等を送った時点で侵害者や侵害の事実を知ったのだから、訴訟提起の3年以前の行為についての損害賠償請求権は既に消滅しているはずだ」と主張したときに「時効が進行しているのか否か」の争いが生じます。

以上のように、損害賠償請求権の短期消滅時効は、特許権者が訴訟提起から3年以上前の侵害行為に対しても損害賠償を要求し、且つ侵害者(被告)が時効の短期消滅を抗弁したときに生じる問題であり、特許権者が訴訟提起から3年以内の侵害行為に対してのみ損害賠償を請求したときや、侵害者(被告)が時効の短期消滅を主張しなかった場合には、時効の進行は争いとなりません。


基礎編は以上ですが、実務的には「どの時点で特許権者が「損害」を知ったのか」というのは、大変難しい問題です。
つまり、侵害者側からすると、警告書が送られてきた時点で「特許権者は損害を知っていたはずだ。」と主張するわけですが、裁判所の判断はそんなに単純ではありません。
これについては後半の「特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(実務編)」で解説します。

(弁理士 森本聡)

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■ 特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(実務編)


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2013年5月16日木曜日

カラオケで復興支援 -日本音楽著作権協会による東日本大震災復興支援「こころ音プロジェクト」について-


東日本大震災から2年以上が経ちますが、被災地は「復興」には程遠い状況です。
このため、今でも様々な業界や民間団体が独自の復興支援活動を行っておられます。


例えば、私が所属する「なにわあきんど塾同友会」では、「Olahono~おらほの~」という東北発のプロジェクトを支援する活動を行っています。


具体的には、同友会の有志会員が陸前高田市広田湾の牡蠣養殖用の筏を購入して、該筏のオーナーとなることで牡蠣生産者を直接支援しています。
(残念ながら、私は毎年岡山から牡蠣を頂くため、これ以上の牡蠣は食べれない・・・ということで今年はオーナーにはなりませんでした。スイマセン)。


で、今回紹介するのは、音楽の著作権を管理するJASRAC(日本音楽著作権協会)が2011年から行っている震災復興支援活動「こころ音(ね)プロジェクト」です。

JASRACの「こころ音(ね)プロジェクト」の紹介ページはコチラです。


著作権者から協力を得て著作物使用料の一部を東日本大震災の震災復興支援基金にするというものであり、同プロジェクトの参加作品をカラオケで歌ったり、ダウンロードしたり、CDを買ったりすると、その著作物使用料が被災地の復興支援に充てられるというものです。


ピンクレディーの「サウスポー」「ペッパー警部」のほか、「ウルトラマンタロウ」などの楽曲が同プロジェクトに参加しており、2013年3月時点で、計28,385,798円が集まっているそうです。


このプロジェクトの発案者であり、ピンクレディーの「サウスポー」「ペッパー警部」の作曲者でもあるJASRAC会長の都倉俊一さんは、公式サイト内の動画で、

JASRAC会長だけでなく一作家として何ができるかを考えた。支援は、この場限りの短期的なものであってはならない。私たち作家の印税は年に4回分配される。その一部でも寄付ができれば、皆さんが歌ってくださればくださるほど、印税を被災地に届けることができる。このプロジェクトはJASRACでなければできないことだ。元気を歌とともに東北に送りたい。

と、このプロジェクトへの思いを明かしておられます。


支援は、この場限りの短期的なものであってはならない。

元気を歌とともに東北に送りたい。

心に響きます。

以上です。
(弁理士 森本聡)

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2013年5月14日火曜日

GIF,JPEGの特許問題についてのまとめ


その分野の技術者や専門家は当たり前のように知っているものの、一般の人々には知られていない特許の問題の一つに「GIF特許問題」「JPEG特許問題」というものがあります。

そうです。
どちらも画像フォーマットとして有名な「GIF」「JPEG」です。
これら「GIF」「JPEG」についても、かつては特許云々の問題がありました。


GIF特許問題

今日では画像フォーマットとして当たり前のように使われている「GIF」(Graphics Interchange Format)は、1987年にアメリカのパソコン通信ネットワーク「CompuServe」により開発されました。


GIFフォーマットの著作権はCompuServeが所有していましたが、その利用はライセンスフリーとなっていました。
また、GIFフォーマットは圧縮率が高くパソコン通信でのデータのやり取りに適したものとなっていました。
このため、インターネット時代が始まると「GIF」は画像交換の標準フォーマットとして急速に普及しました。


しかし、1993年に事態は急変しました。

GIFでは画像データ部分を「LZW圧縮法」という技術で圧縮しますが、この圧縮技術がアメリカのUnisys社の特許権に抵触するものだったのです(Unisys社の特許は、1985年に「High speed data compression and decompression apparatus and method」(USP4,558,302)というタイトルで特許が成立していました。
日本でも特許が成立していました。)。


因みに「LZW圧縮法」の「LZW」の名称は、この開発に関係したAbraham Lempel氏とJacob Ziv氏とTerry Welch氏の名前に由来するそうです。


GIFに自社の特許技術が使われていることを知ったUnisys社は、CompuServeに対しライセンス料の支払いを求め、CompuServeはこれを支払いました(1994年)。


一方、Unisys社は、GIFを扱うソフトの供給者に対してもライセンス料の支払いを求めました。
但し、この時点(1994年)では、Unisys社の標的は商用ソフトに限られており、フリーソフトに関しては特許料を徴収しないという声明を発表していました。


しかし、Unisys社は、1996年に手のひらを返したように前言(声明)を撤回し、フリーソフトからも特許料を徴収する予定があると発表しました。

さらに1999年にはフリーソフトウェア向けの無料のLZWライセンス(事実上のフリー許諾)を完全に廃止し、GIF形式に対応したフリーソフトの作者からも特許料を徴収するようになりました。

さらに、GIF画像を公開する一部のネットユーザ(大きなウェブサイトやポータルサイト)からは、特許使用料として一律5000ドルを徴収するという方針を発表しました。
これにより、GIFは何らかの形でお金を出さない限り、使用できなくなってしまいました。


以上のようなUnisys社の対応には、フリーソフトの作者だけではなく、一般ユーザーからも大ブーイングが起こり、「GIFを利用するな」というボイコット運動が世界中で起こりました。また、フリーソフト作者はライセンス料の支払いを嫌い、そのほとんどがGIFサポートを停止してしまいました。

同時に、GIFに変わる特許のないフォーマットを生み出そうという動きが起こり、「PNG」というフォーマットが開発されました。


2003年6月20日に同社の米国特許権は存続期間満了により失効しました。日本では2004年6月20日に失効しました。これにより、Unisys社の特許権を巡るGIF特許問題は終焉となりました。


JPEGの特許問題

一方、「JPEG」(Joint Photographic Experts Group)とは、コンピュータなどで扱われる静止画像のデジタルデータを圧縮する方式のひとつで、今日では写真データのフォーマットとして広く知られています。

米国のForgent Networks, Inc社が、画像の可逆圧縮で一般的に用いられる符号化方式の一つである「2次元ランレングス符号化」に関する特許を保有していました(米国特許番号が4,698,672であることから「672特許」とも呼ばれていました。)。
つまり、画像の可逆圧縮に技術に関する特許権をForgent社は保有していました。
672特許の図1



2002年に、Forgent社は、「JPEG符号化を用いる機器は同特許に抵触する」として、デジタルカメラメーカーをはじめとする主要機器メーカーにライセンス料の支払いを求めました。一説によると、ソニーは1620万米ドル,三洋電機は1500万米ドルのライセンス料をForgent社に支払ったそうです。


その後もForgent社は、2004年には,機器メーカー31社に対して特許料の支払いを求める訴訟を起こしていました。Yahoo等にも訴訟を起こしました。


しかしながら、2006年にForgent社は、全ての訴訟で和解したと発表しました。訴訟では分が悪かったようです。
それでも最終的にForgent社は、672特許で1億1000万米ドル以上を稼いだそうです。


その後にForgent社の特許権は存続期間満了により失効しました。

以上です。
(弁理士 森本聡)

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2013年5月13日月曜日

ニッセン(4本線)vsアディダス(3本線)のストライプ商標をめぐる争い


You Tubeにロシア語で「中国産の新発明」というタイトルの動画がアップされて話題になっています。

「モスクワで入手した中国産の靴の「AIROLA」のロゴを剥がすと、世界的に著名なドイツのスポーツ用品メーカーであるアディダスのロゴが出てきた!」という内容です。







この中国メーカーは何をしたかったのでしょうか?
税関での差止めを免れるために「AIROLA」のロゴを貼っておき、税関を通った後でこのロゴを剥して、ロシア国内では「adidas」として売るつもりだったのでしょうか?


動画を見ると、靴の左右の側面には白色の3本のストライプが入っています。

この3本のストライプについて、アディダスは、我国で商標権を取得しています。
つまり、アディダスは、靴を指定商品とする3本のストライプについて、我国特許庁に対して商標登録出願を行い、以下のような種々の商標権を取得しています。














で、今回の話は、通販会社のニッセンが「靴について4本線」の商標権を取得したところ、アディダスが「ニッセンの4本線の商標権は無効だと訴えた事件」です。

無効だと訴えられたニッセンの登録商標(本件商標)は、以下のようなマークとなっています。
登録第4913996号





アディダスは、「ニッセンが4本線の本件商標を靴に使用すると、需要者は、著名なアディダスの3本線(スリーストライプ)の登録商標と間違えるおそれがあるから、本件商標は無効だ。」と訴えました(商標法4条1項15号違反)。

また、アディダスは、「ニッセンの4本線の本件商標は、アディダスの3本線の登録商標の信用力や顧客吸引力にフリーライドするなどの不正の目的をもって採択されたものであるから、社会一般道徳や国際信義に反するもので無効だ。」と訴えました(商標法4条1項7号違反)。


これに対して、特許庁は、本件商標(4本線)と引用商標(3本線)とは、異なる商標であるから、需要者は出所の混同を生じないと判断しました。

また、特許庁は、本件商標(4本線)はアディダスの3本線の商標とは異なるものであり、フリーライドなどの不正の目的を持って採択されたものではなく、公の秩序を害するものではないから、本件商標の登録は、商標法4条1項7号に違反したされたものということはできない。」と判断しました。

特許庁の審決に納得がいかなかったアディダスは、知財高裁に訴訟を提起しました。


そして、知財高裁は、以下のように判断して、アディダスの訴えを認め、特許庁の審決を覆して、ニッセンの本件商標は無効だと判断しました。
平成23年(行ケ)第10326号 審決取消請求事件


上記(2)イに認定した事実によれば,運動靴の甲の両側面(靴底とアイレットステイを結ぶ位置)にサイドラインとして付されたスリーストライプス商標(細部のデザインの相違を捨象した3本線を基調とする商標)は,スリーストライプという語が需要者の間に用語として定着していたかはともかく,本件商標の登録出願時である平成17年5月25日及び登録査定時である同年10月28日において,我が国において運動靴の取引者,需要者に,3本線商標ないしスリーストライプス商標といえばアディダス商品を想起するに至る程度に,アディダスの運動靴を表示するものとして著名であったものと認められる。スリーストライプス商標の具体的な構成には,使用時期や製品によって,ストライプの長短,幅,間隔,傾斜角度,輪郭線の形状等,細部のデザインが異なる様々なものが存在するが,これら細部の相違は,スリーストライプス商標の基本的な構成である3本のストライプが与える印象と比較して,看者に異なった印象を与えるほどのものではないというべきである。

本件商標は,上記(2)アのとおり,細長い4本の台形様ストライプからなるものであるが,その指定商品「履物,運動用特殊靴」に属する運動靴においては,同ウに認定したとおり,靴の甲の側面に商標を付す表示態様が多く採用され,そのような態様で付された場合,商標の上下両端部における構成が視認しにくく,また,4本線の部分とそれらの間に存在する3つの空白部分につき,4本線か3本線かが紛れる場合が見受けられるのであり,その場合,参考図(別紙記載11a,b)のような構成のものと区別することが困難であるともいえる。






・・・そうすると,運動靴の甲の側面に付された本件商標に接した取引者,需要者は,本件商標の上下両端部における構成が視認しにくい場合や,本件商標から,4本の細長いストライプではなく,それらの間に存在する空白部分を3本のストライプと認識する場合などがあり,これらのことから,3本のストライプから著名なアディダスのスリーストライプス商標を想起するものと認められる。また,4本線商標かスリーストライプス商標かという相異についても,靴の甲の側面に商標として付された場合,さほど大きな区別のメルクマールになるものとはいえない。・・・

以上検討したところによれば,単に本件商標と引用各商標との外観上の類否を論ずるだけでは足りないのであって,本件商標と引用各商標(アディダスの著名商標)との構成態様より受ける印象及び両商標が使用される指定商品の取引の実情等を総合勘案すると,本件商標を指定商品「履物,運動用特殊靴」に使用したときは,その取引者,需要者において,当該商品がアディダスの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものと認められる。

したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当し,原告ら主張の取消事由1は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法として取り消されるべきである。


当初における当事者間の争いは、「3本線」か「4本線」かという「線の本数」の争いでした。
しかし、裁判所は、「4本線の商標は、それらの間の空白部分をとらえれば、3本線に見える場合もある」として、ニッセンの4本線の本件商標を靴に使用すると、需要者がアディダスの3本線の商標と混同を生じるおそれがあるとして、本件商標は無効であると判断しました。


以上
(弁理士 森本聡)

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