2013年5月17日金曜日

特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(基礎編)


「特許権侵害だ!!」と訴えるとき、将来の侵害に対しては差止請求権を行使し、過去の侵害に対しては不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)、場合によっては不当利得返還請求権(民法703条)を行使します。


損害賠償請求権の消滅時効については、民法724条に「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」と規定されています。


今回のテーマは、この損害賠償請求権の短期消滅時効である「知ったときから3年」の解釈についてです。


【誤った解釈について】

まず、「知ったときから3年」を、「特許侵害である旨の警告書や通告書が来てから3年経ったら損害賠償請求権は時効消滅し、その後に損賠賠償請求権が行使されることは無い。」と解釈されておられる方。完全な間違いです。


例えば交通事故では、不法行為である交通事故が起きるのは「事故の瞬間」だけです。
また、その加害者を知るのは、事故直後や、事故後に加害車両を陸運局に照会したときです。

以上のように、交通事故が起きるのが事故の瞬間の1回だけであること、加害者を知るのは事故直後等のように1回だけであることに鑑みれば、交通事故の場合には「損害および加害者を特定してから3年が経過すれば、被害者が加害者に損害賠償請求権を行使することはできなくなる」というのは正しい解釈であると言えます。


一方、特許権などの知的所有権の侵害においては、警告書等が特許権者から送られてきたのちも、侵害行為者が侵害行為を続行することがあります。この場合には侵害行為は続いているため、侵害行為者が侵害品を販売等するたびに、「新たな侵害行為が行われる」ということになります。


したがって、警告書等が侵害行為者の手元に届いた時点から3年が経過したら一概に損害賠償請求権が消滅するということはありません。なぜなら、警告書等を受け取ったあとに行われた新たな侵害行為を特許権者が知っているとは限らないからです。換言すれば、新たな「損害」が生じていることを特許権者が知っているとは限らないからです。


ですから、侵害行為が続いている場合には、特許権者は最低でも訴訟を提起したときから3年前までの侵害行為に対しては賠償請求権を行使することができます。つまり、「知ってから3年」の「3年前」を、「訴訟提起の日から遡って3年」と解釈して、この3年間の侵害行為に対しては、最低でも特許権者は損害賠償請求権を行使することができるということになります。


以上のように、「警告書が届いてから3年経ったら、損害賠償請求権は時効消滅し、その後は損害賠償請求権が行為されることは無い。」というのは、特許権侵害では誤った解釈であり、警告書が届いてから3年を経過したのちも、訴訟提起から遡る3年分の損害については、特許権者から損害賠償を請求される可能性があります。

尤も、警告書等が届き、直ちに侵害行為を止めた場合には、侵害行為を止めてから3年が経過したら損害賠償請求権の行使は無いと考えて問題ありません。この場合には不当利得返還請求権が残ります。


【結局は、時効の抗弁(短期消滅時効が主張されるか否か)の問題】

実際の侵害訴訟においては、警告書等の送付時期とは無関係に、過去の侵害行為の全て(3年以上)に対して、特許権者が損害賠償を請求することはよくあることです。

この場合に、侵害者側(訴訟の被告側)が時効について抗弁ときにはじめて「時効が進行しているのか否か」の争いが生じます。
換言すれば、侵害者側(被告側)が、「特許権者(原告)は、警告書等を送った時点で侵害者や侵害の事実を知ったのだから、訴訟提起の3年以前の行為についての損害賠償請求権は既に消滅しているはずだ」と主張したときに「時効が進行しているのか否か」の争いが生じます。

以上のように、損害賠償請求権の短期消滅時効は、特許権者が訴訟提起から3年以上前の侵害行為に対しても損害賠償を要求し、且つ侵害者(被告)が時効の短期消滅を抗弁したときに生じる問題であり、特許権者が訴訟提起から3年以内の侵害行為に対してのみ損害賠償を請求したときや、侵害者(被告)が時効の短期消滅を主張しなかった場合には、時効の進行は争いとなりません。


基礎編は以上ですが、実務的には「どの時点で特許権者が「損害」を知ったのか」というのは、大変難しい問題です。
つまり、侵害者側からすると、警告書が送られてきた時点で「特許権者は損害を知っていたはずだ。」と主張するわけですが、裁判所の判断はそんなに単純ではありません。
これについては後半の「特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(実務編)」で解説します。

(弁理士 森本聡)

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■ 特許権侵害における損害賠償請求権の消滅時効について(実務編)


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