2013年6月26日水曜日

ゴルフと知的財産権(その4)-キャロウェイゴルフのXホットドライバーに採用されている特許について-

キャロウェイゴルフ(Callaway Golf)と言えば、今年、石川遼プロと用具、アパレル契約を結んだ、米国の著名なゴルフメーカーです。


キャロウェイゴルフのホームページ(英国)の「PATENT(特許)」のページには「キャラウェイゴルフが、毎年、数千万ドルを研究と設計に費やしていること」「毎年、100件以上の特許出願をしていること」などが記載されています。


また、このページには、現在キャロウェイゴルフが販売しているドライバー、パター、アイアン、ボールなどに採用されている発明を見ることができます(このページは、ある種の仮想特許表示(virtual patent marking)であるのかもしれません。)。

「virtual patent marking」についてはコチラの記事を参照して下さい。


例えば、「Xホットドライバー」の欄には、以下のような特許番号が記載されています。
8403770
7137907
D682、378
D682、965


特許84063770号について

この特許発明には「Adjustable golf club shaft and hosel assembly」という名称が付けられています。直訳すると、「調整可能なゴルフクラブのシャフトとホーゼル部品」となります。なお、「ホーゼル」とは、クラブヘッドとシャフトとを連結するための部品です。







この特許発明は、クラブヘッドとシャフトとの連結角度を多元的に調整することができるホーゼル(軸さや部品)に関するもののようです。

Xホットドライバーの弾道調整機能は、この特許発明に係るホーゼルによって得られる機能のようです。

特許第7137907号について

この特許発明には「Golf club head with variable face thickness」という名称が付けられています。直訳すると、「フェースの厚みを変更することができるゴルフクラブヘッド」となりますが、むしろ、「フェースの厚みが(部分的に)異なるゴルフクラブヘッド」と訳した方が適切かもしれません。


この特許発明では、フィースのX字状、或いはH字状の第1領域(200)の厚み寸法が、第2領域(205)の厚み寸法よりも0.025インチ以上厚いことを特徴とします。

Xホットドライバーは300ヤード以上飛ぶそうですが、驚異的な飛距離の秘密は、このフェース面に関する発明に拠るところが大きいようです。


意匠特許D682、378について

この意匠特許は、先の特許84063770号のホーゼル(軸さや部品)のデザインに関するもののようです。
意匠特許D682、965について

この意匠特許は、ホーゼルを構成する主要部品のデザインに関するもののようです。

以上のように見てみると、キャラウェイゴルフのXホットドライバーには、ヘッドとシャフトとの可変的な連結構造と、フェースの厚みについての発明や意匠が採用されていることがわかります。

Xホットドライバーを持っておられる方は、是非一度、特許発明や意匠の内容を確認してみてください。

以上です。
(弁理士 森本聡)

関連記事

■ ゴルフボールの意匠について(ゴルフと知的財産権 その1)

■ ゴルフコースのレイアウトの発明(ゴルフと知的財産権 その2)

■ ゴルフコースのレイアウトの発明(ゴルフと知的財産権 その3)


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2013年6月19日水曜日

「庭園」の著作権を侵害-著作者人格権について-

2013年6月18日付の「YOMIURI ONLINE」によると、

JR大阪駅北側にある複合施設「新梅田シティ」の庭園内で、積水ハウスが設置工事を進めていることを17日発表した巨大な緑化壁「希望の壁」(高さ9メートル、長さ78メートル)を巡り、庭園を設計した造園家吉村元男さん(75)が「庭園の統一されたデザインが損なわれ、著作権を侵害する」として、同社に工事中止を求める仮処分を19日、大阪地裁に申請する」とのこと。

また、同ニュースによると、

吉村さんは、庭園は「森との共生」「水の誕生とその循環」を理念として緻密な計算のうえデザインしたもので、思想を創作的に表現した著作物にあたる、と指摘。そのうえで、緑化壁の設置は、作品の同一性を保つ著作者の権利を侵害する、と主張している。仮処分裁判では、〈1〉庭園は著作物にあたるか〈2〉著作物にあたる場合、緑化壁の設置は庭園設計者(吉村さん)の権利を侵害するか――が争点になる見通し。」とのこと。

「YOMIURI ONLINE」のニュースはコチラです。


造園家の吉村氏が設計したのは「庭園」であって「緑化壁」でなく、そうすると、「緑化壁を設置することは、吉村氏の著作権を侵害することにはならないのでは・・・』というような疑問を持たれた方。

このブログ記事では「著作権」について簡単に解説させて頂きますので、是非一読してみて下さい。



「著作権」は、一つの権利ではないということ

まず、著作権法で著作者に認められる権利は、「人格的な権利」と「財産的な権利」に大別できます。

前者は、「著作者人格権」といい、著作者のみに認められる権利です。

後者は、「狭義の著作権」とも呼ばれるものであり、著作者から第三者に譲渡可能な権利です。

著作権=(著作者人格権)+(狭義の著作権)

上記のように、「著作者人格権」は、著作者のみに認められるものであり、譲渡できないものであるのに対して、「狭義の著作権」は譲渡が可能です。

このため、著作者から「狭義の著作権」を譲渡された場合であっても、「著作者人格権」は、以前として著作者に残っているということになります。

換言すれば、「著作者人格権」を保有している「著作者」と、「狭義の著作権」を保有している「著作権者」とが別人であるということは多々あることです。


著作者人格権について

著作者人格権は、「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3種からなります。

■ 公表権とは、著作者が、著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供したり、展示したりする権利です。
(つまり、著作物の公表時期は、著作者が決めることができるという権利です。)

■ 氏名表示権とは、著作物の原作品に公衆への提供時に、著作者が実名や変名を表示したり、表示しないことを決めることができる権利です。

■ 同一性保持権とは、著作者は著作物の同一性を保持することができるという権利です。
(つまり、著作者の意に反して、著作物の変更や改変はされないという権利です)


狭義の著作権について

「狭義の著作権」を列挙すると、以下の如くとなります。

①著作物を複製する権利である「複製権」
②著作物を公に上演し、又は演奏する権利である「上演権」「演奏権」
③著作物を公に上映する「上映権」
④著作物をサーバーにアップデートする「公衆送信権」
⑤著作物を公に口述する「口述権」
⑥美術の著作物や写真の著作物を原作品により公に展示する「展示権」
⑦映画の著作物を複製物により頒布する「頒布権」
⑧著作物を譲渡する「譲渡権」
⑨著作物を貸与により公衆に提供する「貸与権」
⑩著作物を翻訳、編曲、変形、その他翻案する「翻訳権」「翻案権」


以上を踏まえたうえで、上記のニュースを見てみると、以上のことがわかります。

まず、造園家吉村氏は、「緑化壁の設置は、作品の同一性を保つ著作者の権利を侵害する」と主張しておられます。

このことから、吉村氏は、緑化壁を設置することは、著作者人格権の「同一性保持権」の侵害だと、主張しておられることがわかります。

さらに具体的に言うと、緑化壁を設置することは、自己の「庭園」に係る著作物の「意に反する変更」、或いは「意に反する改変」に該当するから、緑化壁の設置行為は同一性保持権の侵害にあたる、と主張しておられることがわかります。

また、ニュースにはありませんが、緑化壁を設置することが、著作物の変形に該当すると考えた場合には、狭義の著作権の「翻案権」の侵害だと主張することも可能であると考えます(尤も、庭園の著作権(狭義の著作権)が、著作者の手から離れている場合には、上記主張は不可能となります)。

以上のように、このニュースに係る事案では、造園家が創作した「庭園」の著作物をコピーした云々ということで著作権侵害が問題となっているのではなく、著作者である造園家が創作した「庭園」の著作物を意に反して改変されようとしているとして、著作者人格権の「同一性保持権」の侵害が問題となっています。


まとめ

著作権とは、「著作者人格権」と「狭義の著作権」とで構成される。

「著作者人格権」は、著作者固有の権利であり、譲渡できない。

このため、「狭義の著作権(複製権等)」の譲渡を受けても、「著作者人格権」の侵害に問われる可能性がある。


以上です。
(弁理士 森本聡)


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2013年6月18日火曜日

ゴルフと知的財産権(その3)

第1回第2回に続き、第3回の「ゴルフと知的財産権」に関する話題です。

今回のテーマも「ゴルフコースのレイアウトの発明」についてです。

米国特許5395115号(USPN 5395115)に記載されているゴルフコースは、回転可能な中央のティーショットエリア(ティーオフエリア)と、ティーショットエリアの周囲に配置された複数のホールとで構成されています。






より狭い場所にゴルフ場を作ることができるというのが、この発明の「ゴルフコース」の利点のようです。

図面を見ると、ちゃんと18ホールあり、パー5のホールもあります。


一つのホールが終了するたびに、真ん中のティーショットエリアに戻ってきて、エレベータで上まで昇り、ティーショットを打って、降りての繰り返し、というのは想像しただけで、ぞっとしますが・・・。

練習ホールとしては最高でしょう。



下記は、「Circular Practice Range」という米国に実在するゴルフ練習場です。ショートコースに並設する練習場で、2011年PGAゴルフショーも開かれたそうです。
写真は、上記の「Circular Practice Range」のウェブサイトから転用させて頂きました。



この円形に形成された練習場は、円の外周縁に沿うように8つのティーショットエリアが形成されており、各ティーショットエリアから中央に配置されたグリーンに向かってティーショットを打つように構成されています。

ティーショットの方向が、内から外、外から内という点で異なりますが、全体が円形に形成されているという点では、先の米国特許に似ています。

以上です。
(弁理士 森本聡)

関連記事

■ ゴルフボールの意匠について






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2013年6月14日金曜日

IKEAが買い物代行業者を商標権侵害などで提訴した件


「知財情報局」のインターネットニュースによると、世界最大の家具チェー〔IKEA(イケア)〕が、無断でロゴや商品写真などを使用されたとして、大阪府茨木市の買い物代行業者を著作権侵害と商標権侵害などで提訴したそうです。


同ニュースによると、〔IKEAは、日本国内での通信販売は行っていないそうです。


一方、インターネット上には「IKEAのすべての商品が購入できます」などとうたう「買い物代行」の業者(「IKEA通販」等)が多数存在しており、顧客から注文を受けて、〔IKEAの店舗で商品を代わりに購入し、家具などは組み立ても行ったうえで、手数料を上乗せして販売しているそうです。

知財情報局のニュースはコチラです。


『無断で「IKEA」の名称を使うなんて完全にアウトやろ!』と短絡的に決め付けてしまいそうですが、どこがアウトなのか、ちょっとだけ解説をさせて下さい。


● 著作権侵害について

まず、買い物代行業者は、〔IKEAに無断で、〔IKEAの家具等の商品写真を、自己のホームページに転載していたようです。

この場合には、写真の著作権の侵害、より詳しくは写真の著作権の複製権の侵害に問われる可能性があります。サーバにアップロードしたとして、公衆送信権の侵害に問われる可能性もあります。

但し、この場合には、〔IKEAの家具等の写真の著作物性と、写真の著作権の帰属が問題になる可能性があります(あくまで一般論です)。

つまり、写真が著作物として認められるためには、創作性の要件を満たすことが必要です。このため、〔IKEAの家具等の写真が、誰が撮っても同じようなものになるような場合には、創作性に欠けるとして、著作権法上の著作物として認められない可能性があります。

逆に言うと、〔IKEAの写真が、家具等の形態が最も判り易いように、或いは商品の訴求効果が得られるように、照明やカメラアングル等々、カメラマンの種々の工夫や技術の下で撮影されたものであると認められれば、創作性の要件は満たされ、著作権法上の写真の著作物として認められる可能性は高くなります。


次に、写真の著作権の帰属が問題になるかもしれません。

つまり、〔IKEAが家具等の写真が、〔IKEAの従業員により撮影されたものである場合には、著作権者は〔IKEAということで問題は無いと考えます。

しかし、社外のカメラマンを使って撮影されたものである場合には、〔IKEAが著作権者であるか否かが問題になります。

また、社外のカメラマンから著作物の全部を譲り受けたのか、それとも著作権の一部(複製権等)を譲り受けたのかによっても事態は変わってきます。

尤も、本事案では〔IKEAは「写真の著作権が侵害されている!」と訴えたようですから、著作権者云々の問題はクリアされていると思われますが、何しろ著作権は無登録で発生するものであるため、権利者の帰属が不明瞭となり易いというのが実情です。


● 商標権侵害について

まず、登録商標(登録されている商標)の権利効力が、商標(マーク)そのものだけでなく、商品或いはサービスとの関係で決定されることは、ココの記事にも書いたとおりです。

つまり、〔IKEAの「IKEA通販」や「イケア通販」に対する商標権侵害が認められるためには、「IKEA通販」等が使用している商標(マークである「IKEA」)が、登録商標のマーク「IKEA」「イケア」と同一或いは類似していることが必要であり、さらに、登録商標で指定されている商品やサービスが、「IKEA通販」や「イケア通販」が行っているサービスと同一或いは類似していることが必要です。


さらに言うと、「IKEA」という登録商標がある場合に、どんな商品やサービスに「IKEA」と付けても一律に「アウト」ということになるわけではなく、「IKEA」の商標権の効力が及ぶのは、登録商標で指定された商品やサービスそのもの、あるいは指定された商品やサービスに類似する商品やサービスに限られるということです。


ここで、買い物代行業者である「IKEA通販」や「イケア通販」が行っているサービスが、「IKEA」や「イケア」の商標を無断で使用していることは論を俟ちません。

また、これら買い物代行業者が行っているサービスが、「小売」に該当することも論を俟ちません。これら買い物代行業者は、本家本元の〔IKEAから商品を買い、これを最終消費者に販売しているからです。

そこで、〔IKEAが保有している登録商標について調べてみると、「小売」を指定役務(サービス)とする登録商標としては、商標第5197726号(「IKEA」の標準文字)と商標第5197727号(マーク)が見つかりました。

商標第5197727号のIKEAのマーク


つまり、〔IKEAは、商標「IKEA」について「小売」を指定役務とする商標権を保有していることがわかります。

したがって、〔IKEAは、登録商標「IKEA」を無断で小売業に使用している買い物代行業者に対して、これら二つの商標権に基づいて権利行使することが可能であると考えます。

以上のように、〔IKEA側の商標権侵害云々の主張についても、これが認められる可能性は高いように思われます。


なお、〔IKEAは、家具等を指定商品とする商標権も取得しておられます(例えば、商標第1054440号)。
このような「家具」を指定商品とする商標権の効力が、「家具の小売業」にまで及ぶためには、「家具」と「家具の小売業」とが類似していると裁判所で認められる必要があります。
但し、買い物代行業者は〔IKEAから家具を購入しています。
このため、買い物代行業者側から『「家具」に係る商標権は、〔IKEAから家具を購入した時点で消尽している。』と主張されることも考えられます。


まあ、今回の事件では〔IKEA側の主張が認められて、最後は和解となる可能性がと高いと思います(結果が「判決」の形で世間に公表される可能性は低いように思います)。


●まとめ

著作権の侵害訴訟では、対象となる著作物が著作権法の保護されるだけの価値のある著作物か否かということが争われることが多い。
また、著作権(複製権等)の帰属が問題となることも多い。

商標権を侵害していると認められるためには、第三者が使用している商標(マーク)と登録商標とが同一或いは類似しているだけでなく、第三者の商品や役務と、登録商標で指定した商品や役務とが、同一或いは類似していることが必要である。

以上です。
(弁理士 森本聡)

関連記事

■ 「ソースの二度付けは禁止やで!」が商標登録されました。

■ 韓国の「ダサソー」の商標使用差止め。日本の「ダイソー」と類似。



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2013年6月12日水曜日

タイプフェイス(書体)と知的財産権

「書体」は言葉の意味を伝える重要な要素であるため、印刷会社やデザイナーにとって、「書体」の選択は極めて重要です。


また、「平仮名」「カタカナ」「漢字」などからなる日本語の特異性のため、我国では多種多様な「書体」が生み出されました。実際、中国で完成された「書体」の数は、400強であるのに対して、我国には3000近くの「書体」があるそうです。


また、現実に「書体」は取引対象とされてきました。

具体的には、「書体」の開発者であるデザイナーは『「書体」のデザインは、個人が考え出したものであり、本来デザイナー自身に属するものであるから、「書体」のデザインを完成した時に、原始的に所有権や著作権といった「権利」が発生する。』と主張し、この主張を受けてワープロソフトの作成会社等は、デザイナーから「権利」を買い取ったり、デザイナーにロイヤリティを支払い、許諾を受けているというのが実情です。


しかしながら、「タイプフェイス(書体)」や「フォント」についての我国の法律上の「権利」は明確ではありません。


そこで、この記事では、「書体」の保護の実情について、我国だけでなく外国の法制度にも目を向けて解説します。

■ 定義

まず、「タイプフェイス」と「フォント」とは別物です。

タイプフェイス」とは「統一されたコンセプトに基づき一定のルールやスタイルでデザインされたひと揃いの文字」のことで、いわゆる書体のデザインを指します。

これに対して「フォント」は、タイプフェイスを表示や記録、印刷など機器を通じて使用できるようにしたものをいいます。

換言すれば、「タイプフェイス」とは文字のデザイン(書体)そのものであり、これをコンピュータに表示したり、印刷したりできるようにしたら、「フォント」となります。


■ 我国でのタイプフェイス・書体の保護状況

タイプフェイス(書体)が著作権法で保護されるか否かについては、我国では否定的な判決しかないというのが実情です。

例えば、「八木昭興対桑山三郎・柏書房事件」では、原告のデザインの「書体」を被告が無断で書籍に掲載したとして、訴えが起こされましたが、東京地裁と東京高裁はいずれも、「書体」の著作物性を認めず、原告の訴えを退けました。
その理由として、裁判所は『書体に著作権を認めることは、万人共有の文化的財産である文字などについて、特定の人に排他的な権利を独占させることになる』ことを挙げています。
争いとなったタイプフェイスの一つ「ヤギ・ダブル」

また「モリサワ対エヌアイシー事件」でも、タイプフェイス(書体)の著作物性を否定する判断が下されました。

大阪地裁は「本件書体のような文字の書体であって、なお、著作権法の保護の対象になるものがあるとすれば、それは、当該文字が持っている本来の情報伝達機能を失わせる程のものであることまでは必要でないが、当該文字が本来の情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさだけでなく、それとは別に、当該書体それ自体が、これを見る平均的一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性を持ったものでなければならないと解するのが相当である。・・・原告の書体は実用性の強いものであって、美的創作性を持っていない。したがって著作物性を認めることはできない。」と判断しました。

■ 我国でのフォントの保護状況

一方の「フォント」に関しては、それがコンピュータで使用されるフォントのプログラムである場合には、「プログラム」の著作物としての保護を認めた裁判例があります(大阪地裁 平成15年(ワ)第2552号)。

原告は、MAC 用の日本語フォントプログラム(本件フォントプログラム)を開発して、平成元年からこれを販売していましたが、被告がその業務に使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクに、本件フォントプログラムをインストールしていました。さらに、被告は、営業トークとして、パーソナルコンピュータの販売を行う際に、本件フォントプログラムを無料でインストールする旨述べていました。

裁判所は、被告に対して当該プログラムの使用を差し止め、損害賠償金を支払わせる判決を下しました。このように、「フォント」を、著作物であるプログラムとして扱い、違法な複製から「フォント」を保護した裁判例があります。


■ 海外における「タイプフェイス」等の保護状況

以上のように、我国では「フォント」をプログラムの著作物として認めた裁判例が一件ありますが、「タイプフェイス」や「フォント」自身を著作物として積極的に認めた裁判例はありません。

なお、我国では「タイプフェイス」や「フォント」は意匠法上の「物品」には該当しないとしており、現行の意匠法では、そもそも「タイプフェイス」等は意匠法上の保護対象となり得ません。

しかしながら、海外に目を向けてみると、「タイプフェイス」や「フォント」を知的財産権の保護対象とする国の方が多いようです。


米国⇒「フォント」を意匠特許として特許法で保護

米国特許庁は、古くよりタイプフェイスを意匠特許として認めてきた歴史があるそうです。
しかし、近年では、米国特許庁は、意匠の特定の特徴を共有する文字のセットから成る「タイプフェイス」は、それ自体は製造物品ではないから意匠特許の保護対象とはならないと判断しており、一方の「フォント」は、タイプフェイスの文字の特定の集合体を作成するために使用される手段を包含することから、この手段が「製造物品」にあたり、意匠特許の保護対象となるとの立場を取っているそうです。

例えば、米国特許第 D516,617 号「タイプフォント(TYPE FONT)」では、以下のような文字が意匠特許として登録されています。



なお、著作権法によるタイプフェイスの保護については、判例上、著作権保護が否定されているそうです。ただし、タイプフェイスを作成するフォントソフトプログラムは著作権保護の対象であると判断されているそうです。


欧州連合(EU)⇒「タイプフェイス」を意匠法(登録共同体意匠と非登録共同体意匠)で保護

欧州連合の加盟国では、「タイプフェイス」は意匠法で保護されます。
また、イギリス、フランスのように、意匠法とは別に、タイプフェイスを著作権法で保護している国もあります


韓国⇒「タイプフェイス」を意匠法で保護

韓国では、「タイプフェイス」が意匠法上の保護対象であることが明記されています。

中国⇒「タイプフェイス」も「フォント」も保護され難いようです。

中国では、フォントプログラムは、プログラムの著作物には該当しないとする裁判例があるそうです。また、「フォントセットは著作権法が定める美術品の要求を満たしているものの、一文字単位では美術作品とは見なせない」という裁判例もあるそうです。


■ まとめ

以上のように見てみると、海外では「タイプフェイス」や「フォント」を積極的に保護することが趨勢のようです。

国際調和の観点からすると、我国でも、これら「タイプフェイス」等を知的財産権法の保護対象として何らかの方法で保護する必要があるように思えます。

私見としては、「タイプフェイス」を意匠法で保護するとなると、出願や公開が煩雑となるため、著作権のような出願や登録が必要でない制度で認めた方が良いと考えます。

また、意匠法で保護するとなると、「タイプフェイス」を構成する一部の文字が、出願前より公知であった「タイプフェイス」の文字と同一や類似であった場合には、「タイプフェイス」の全体の新規性や創作容易性が否定されるのか否かといった争いが生じます。

意匠権の一部を侵害云々」といった新たな争いも生じそうです。

これらの点に鑑みても、意匠法の保護対象に「タイプフェイス」を含ませることは止めておいた方が良いと考えます。




以上です。
(弁理士 森本聡)

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2013年6月11日火曜日

アプリケーションプログラミングインタフェース(API)と著作権

先日、「Oracle対Googleの控訴審でAPIへの著作権適用に反対する意見書、科学者が連名で提出」というニュースが流れました。
(2013年5月31日付の「@IT」


つまり、Javaで有名なサン・マイクロシステムズ社を買収したOracle(オラクル)が、Googleに対して「AndroidはJava APIに係る知的所有権を侵害している」と訴えた訴訟の控訴審(第2審)において、著名な科学者達が連名で「APIは著作物では無い」という意見書を裁判所に提出したようです。


なお、この裁判の一審判決では、「APIに著作権は適用できない」と認定したそうです。また、「著作権適用の範囲を過度に広げようとするOracleの動きは、著作権法の趣旨やコンピュータ科学の性質に相容れない」と指摘したそうです。


そこで、今回は、「コンピュータプログラム」、「コンピュータプログラム言語」、および「アプリケーションプログラミングインタフェース(API)」の三者が、我国の著作権法でどのように扱われているのかについて解説します。


■「コンピュータプログラム」について

まず、「コンピュータプログラム」は著作権法上の著作物であると明記されています(著作権法10条第1項第9号)。

また、「プログラム」とは、電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」と規定されています(著作権法2条1項10の2)。

ここにいう「プログラム」には、ワープロソフトのプログラムやイラストソフトのプログラムのほか、テレビやカメラ等の制御プログラムも含まれます。

また、ソースプログラムやオブジェクトプログラムもプログラムに該当します。

オペレーションシステムやコンパイラ等も含まれます。


因みに、20年以上も前ですが、ゲームメーカーのタイトーが、ゲーム機「スペース・インベーダー・パートⅡ」の著作権が侵害されたとして、アイ・エヌ・ジ・エンタープライゼズを訴えた事件がありました。この事件で裁判所は、「ソース・コードは作成者の論理的思考が必要とされ、かつ個別的な相違が生じるものであるため、著作権法上保護される著作物である」と判断して、「ソース・コードの複製物に当たるオブジェクト・コードをコピーすることは、ソース・コードの著作権を侵害したことになる。」と認定して、被告に損害賠償を命じました(東京地方裁判所1982年12月6日判決)。


スペース・インベーダー・パートⅡ

この事件が、我国で始めてプログラムが著作物として認められた事件でした。
そして、この事件を受けて著作権法の改正が行われ、プログラムが著作物であることが著作権法に明記されました。


■「コンピュータプログラム言語」について

「プログラム言語」は、著作権法上の著作物には該当しません。つまり、プログラム言語には著作権は発生しません。

これは、もしプログラム言語自体に著作権が発生するとしたら、その言語を用いて作成したプログラムすべてに、プログラム言語の開発者の権利が及ぶこととなり、実質的に誰もその言語を用いることができなくなるからです。


■「アプリケーションプログラミングインタフェース(API)」について

「API」とは、ソフトウェアを開発する際に使用できる命令や関数の集合、或いはそれらを利用するためのプログラム上の手続きを定めた規約の集合を意味します。

個々のソフトウェアの開発者がソフトウェアの持つすべての機能をプログラミングするのは困難で無駄が多いため、多くのソフトウェアが共通して利用する機能は、「API」という「規約」としてまとめられています。

そして、個々の開発者は規約に従ってその機能を「呼び出す」だけで、自分でプログラミングすることなくその機能を利用したソフトウェアを作成することができるようになっています。

のようなAPIも、プログラム言語と同様に我国では著作物では無いと解されています。

これは、プログラム言語と同様に、APIに著作権が発生するとしたら、そのAPIを用いて作成したプログラムの全てに、API開発者の権利が及ぶことになるからです。


著作権法は、あくまでも表現それ自体を保護するものです。したがって、表現の手段となる言語や、プログラム上の手続きを定めた規約(API)といった表現のためのルールについては、著作権法は保護しないということです。



以上のように、「API」は、著作権法の保護対象ではないという考えが趨勢のようで、先のOracle対Googleの訴訟も、Oracleにはチョット歩が悪そうです。

なお、Androidのアプリ開発では、Java開発者にとって馴染みのあるJava言語やJava API群の多くを利用できるそうです。

また、開発環境もJava上に構築してあり、統合開発ツールEclipseが使えるそうです。

ところが、Androidには旧サンがライセンスするJavaプラットフォームは含まれないため、Oracleはロイヤルティ収入を得ることができず、このことを問題視したOracleが金銭目的でGoogleを訴えたというのが実情のようです。


以上です。
(弁理士 森本聡)

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2013年6月7日金曜日

ゴルフと知的財産権(その2)

第1回に続き、第2回の「ゴルフと知的財産権」に関する話題です。


第1回のテーマは「ゴルフボールの意匠について」でした。

そして今回のテーマは「ゴルフコースのレイアウトの発明」についてであり、以下の2件の米国特許を紹介します。


米国特許第7651404号

まず、最初に紹介する特許発明は、“Select Pace Golf Course,”と題された米国特許第7651404号(USPN 7651404)です。

日本語に訳すと「(プレーの)ペースを選択(できる)ゴルフコース」となるでしょうか。

この特許公報には、従来のゴルフコースの問題点として、

「従来のゴルフコースは1番ホールから順番にプレーするように設計されており、ランダムな順番にホールプレーするようには設計されていない。」

「このため、一部のプレーヤーのプレーが遅いとイライラする。」

などと記載されています。


そして、以上のような従来の問題点を解決することを目的として、この発明では、平行方向に複数本のカート道を配置するとともに、これらカート道の伸び方向と垂直な方向に各ホールのフェアウェイを配置しています。






そして、このようにカート道とフェアウェイを配置することにより、スピーディなプレーヤーは遅いプレーヤーを避けて、空いているホールを安全に見つけて、ランダムな順番でホールをプレーできると記載されています。


ランダムな順番でホールをプレーするなんてことが現実に許されるのかはわかりませんが、気が付いたら同じホールを二度廻っていたというようなことがないように、プレーヤーには注意が求められそうです。

また、キャディの付かないセルフプレーで廻ったら、朝から晩まで帰ってこないプレーヤーも出てきて、それはそれで楽しそうです。


米国特許第6053819号

次に紹介する発明は、“Golf Course, Golf Park and Associated Method of Playing a Golf Game,”と題された米国特許第6053819号(USPN 6,053,819)です。

なお、この発明は日本にも出願されていますが(特表2002-502679)、我国では特許権を得るには至っておりません(審査請求をせずに、みなし取下げ)。


この発明のポイントは、要は限られたスペースの中で18ホールをグルグルと廻るというものらしいです。
木をグリーンの手前に移動させてきて、コースレート(コースの難易度)を変更することもできるそうです。












わざわざゴルフ場まで来て、同じ場所をぐるぐる廻るというのは、全く気乗りがしませんが、・・・。練習場であれば楽しめそうです。


なお、以上の2件の発明は、米国では審査官の審査を経て、しっかりと特許査定を得ています(特許権が発生しています。)


以上です。
(弁理士 森本聡)


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2013年6月5日水曜日

ライト兄弟と特許戦争

今回のテーマは、動力飛行機の動力飛行機の開発者として、また、動力飛行機による有人飛行に世界で初めて成功したパイロットとして広く知られるライト兄弟(ウィルバー・ライト(Wilbur Wright 1867年4月16日~1912年5月30日)、オーヴィル・ライト(Orville Wright 1871年8月19日~1948年1月30日))についての話題です。

ライト兄弟は、1903年に12馬力のエンジンを搭載した「ライトフライヤー号」を完成し、同年の12月17日に、ノースカロライナ州キルデビルヒルズの砂丘で人類初の有人動力飛行に成功しました。
ライトフライヤー号の初飛行

ライド兄弟が初飛行に成功した時の写真(上記写真)は、地元の海難救助所員(ジョン・T・ダニエルズ)が撮ったもので、その時の観客は僅か5名だったそうです。


ライトフライヤー号には、一方のプロペラチェーンを8の字に掛けることで左右のプロペラを逆回転させて、プロペラから発生する回転トルクを打ち消すといった工夫のほか、主翼を変形させてたわませる(捻らせる/ひねらせる)「たわみ翼」、プロペラの先端を切り取る「ベントエンド・プロペラ」といった種々の斬新な技術が採用されていました。

たわみ翼

ここまでの話は、偉人伝などにも掲載されている内容であり、皆さんも良くご存知だと思います。


■ 特許権者としてのライト兄弟


一方で、ライト兄弟は特許権の取得にも熱心でした。


具体的には、上述の1903年12月の初飛行に先立って、同年の3月23日に米国特許庁に「たわみ翼」に関する特許出願を行い、1906年に特許権を取得しています(Flying Machine 821,393)。

ライト兄弟が特許発明の図面


また、この米国特許出願を基礎として、英国やフランスにも特許出願を行い、これらの国でも特許権を取得しています。

それ以外にも、私が調べた範囲では、ライト兄弟の名前で検索すると、20件以上の特許公報がヒットしました。


■ 飛行成功後のライト兄弟の苦悩

以上のように、ライト兄弟は「飛行機」という大発明をなしとげたにもかかわらず、その後の人生には苦悩も多かったようです。

まず、ライト兄弟自信が「特許権」に固執しすぎました。


ライト兄弟が完成した発明は「たわみ翼」に関するものであったにもかかわらず、兄弟はこれを「飛行原理」と広く解釈しました。

具体的には、特許権の効力は「翼をたわめる」という方法論だけではなく「左右の翼の揚力を変えることによって機体をロールさせる」という原理にまで及ぶと考えました。


そして、ライト兄弟は特許権の行使に徹底的にこだわり、他のライバルの発明者や開発会社に対して各国で特許訴訟を乱発しました。


特に、ライバルであるカーチス(Glenn Curtiss)が開発した補助翼「エルロン」に対する法定闘争はたいへん熾烈なものだったそうです。結果は、ライト兄弟が勝訴したそうです。


しかし、このようなライト兄弟の対応のために、多くのパイオニア達が新しい飛行機の開発を断念し、航空技術は停滞してしまいました。特に米国の航空技術の進歩発展への悪影響は甚大であり、米国の航空技術はフランスに大きく遅れをとることになりました。


このため1917年に政府が介入し、ライト兄弟に対して他社に特許をライセンスするよう命じました。これにより、ようやく飛行機のイノベーションが本格的に始まったそうです。


また、ライト兄弟自信が「たわみ翼」に固執したため、次第に時代から取り残されていくことになりました。
つまり、「たわみ翼」に関する特許権の消滅後も「たわみ翼」の技術に拘り、新たに開発する飛行機に補助翼「エルロン」を採用することはなかったため、彼らの飛行機は次第に時代遅れなものとなりました。


ライト兄弟が設立した「ライト社(その後のライト航空会社)」は、先のカーチスが設立した「ヘリングカーチス社」と1929年に合併して、「カーチス・ライト」社となりました。
「カーチス・ライト社」は、「カーチスP-40」といった第二次世界大戦で活躍した戦闘機を作り全盛期を迎えましたが、1946年にノースアメリカン社に吸収されました。


1942年に弟のオーヴィルは、自動車王ヘンリー・フォードに対して、自分が動力飛行機を発明したことを悔いる内容の手紙を送ったそうです。
また、翌年の1943年にアメリカ特許局設立150周年記念行事に参加した際には、最近100年間の十大発明は何かと問われ、あえて飛行機をその中から除外したそうです。


まとめ(感想)

「特許制度」とは、発明を保護だけでなく、発明の利用を図ることにより、産業の発達に寄与することを目的とするものです。

このような特許制度の目的に鑑みれば、完成した発明が人類の進歩発展に大きく貢献する「大発明」である場合には、「第三者の利用」を抑制するだけでなく、ロイヤリティといった特許権者が受け得る利益とのバランスを取りながら「第三者の利用」を適切にコントロールする新たな術(制度)を考える必要があるのかもしれません。

この点は、「特許の標準化」とも繋がる、特許制度の今度の課題とも言えそうです。

以上です。
(弁理士 森本聡)

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■ 特許の標準化について


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2013年6月4日火曜日

研修報告-米国改正特許法(先発明者出願主義)について-

先日、大阪大学知的財産センター、弁理士会等が主催する米国改正特許法に関する研修に行ってきました。

具体的な研修内容は、米国改正特許法で新たに追加された「特許付与後の有効性再審査手続」と「先発明者出願主義(First-Inventor-to-File)」についてでしたが、今回は後者の「先発明者出願主義」についてのみを取り上げます。


はじめに

新聞報道等では『今回の改正により、米国特許法が「先発明主義(※1)」から「先願主義(※2)」に移行した。』というような報道も見られますが、実情はそのような単純なものでは無いようです。

※1「先発明主義」とは、先に発明した者に対して特許権を付与するという考え方。
※2「先願主義」とは、発明の時期とは無関係に、先に特許庁に出願したもの対して特許権を付与するという考え方。

なお、改正前の先発明主義の下で「先発明」が主張されていたのは、全出願の0.1%程度であり、加えて、先発明の主張が認められるのはその中の1/3程度であり、先発明の主張が認められて特許となる発明は、従来においても極めて少なかったというのが実情だそうです。


「先発明者出願主義」と「先願主義」の共通点

「発明日」ではなく、「出願日:有効出願日」を基準に新規性、先後願を判断するという点では、「先発明者出願主義」と「先願主義」とは共通します。


「先発明者出願主義」と「先願主義」の相違点

我国の制度で言うと「新規性喪失の例外(特30条)」と「拡大された先願の地位(準公知)(特29条の2)」の規定が、「先発明者先願主義」と「先願主義」では異なります。


新規性喪失の例外に関する相違点について

我国では、特許を受ける権利を有する者(Ⅹ)が、発明(A)を開示してから、同じ発明(A)について特許出願をするまでの間に、第三者(Y)が同じ発明(A)について開示した場合には、当該第三者(Y)の開示行為が「意に反する場合」でなければ、Ⅹによる特許出願に係る発明(A)は、新規性欠如を理由として拒絶されます(Ⅹの開示行為について新規性喪失の例外の適用を受けても、第三者(Y)の開示行為により、特許出願は拒絶されてしまいます。)。

これに対して、米国改正特許法では、上記のような場合であっても、Yによる開示が発明者等又は発明者等から取得した第三者によって公に開示されたものである場合には、特許出願に係る発明(A)は、新規性を失いません。

換言すれば、Ⅹによる発明(A)の開示行為により、Yによる発明(A)の開示は新規性判断時の先行技術としては不適格なものとなり、Ⅹによる特許出願は助かる(拒絶されない)可能性があります。


また、我国の新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、発明の開示後、6ヶ月以内に特許出願する必要がありますが、米国では発明の開示から1年以内がグレースピリオドとなっています(開示から1年以内に特許出願すればよい。)。


拡大された先願の地位について

我国では、特許を受ける権利を有する者(Ⅹ)が、発明(A)を開示してから、当該発明(A)について特許出願をするまでの間に、第三者(Y)が同じ発明(A)について特許出願した場合には、当該第三者(Y)の出願に発明(A)が含まれていることを理由として、法第29条の2により拒絶されます(Ⅹの開示行為について新規性喪失の例外の適用を受けても、第三者(Y)の出願により特許出願は拒絶されてしまいます。))。

これに対して、米国改正特許法では、上記のような場合であっても、Yによる発明(A)の特許出願は先行技術として不適格なものとなり、Ⅹによる特許出願は助かる(拒絶されない)可能性があります。



以上のような「先発明者先願主義」の根底には、グレースピリオド中の開示を発明日の証拠と理解して、「開示」が他の発明者の発明に対する排斥効のみならず、「開示」を特許を取得する優先権を発生するという考えがあるそうです(※3)。

※3:今回の研修の講師でもあった竹中俊子先生による「L&T 54号29頁(2012年)」


以上です。
(弁理士 森本聡)


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