2013年6月12日水曜日

タイプフェイス(書体)と知的財産権

「書体」は言葉の意味を伝える重要な要素であるため、印刷会社やデザイナーにとって、「書体」の選択は極めて重要です。


また、「平仮名」「カタカナ」「漢字」などからなる日本語の特異性のため、我国では多種多様な「書体」が生み出されました。実際、中国で完成された「書体」の数は、400強であるのに対して、我国には3000近くの「書体」があるそうです。


また、現実に「書体」は取引対象とされてきました。

具体的には、「書体」の開発者であるデザイナーは『「書体」のデザインは、個人が考え出したものであり、本来デザイナー自身に属するものであるから、「書体」のデザインを完成した時に、原始的に所有権や著作権といった「権利」が発生する。』と主張し、この主張を受けてワープロソフトの作成会社等は、デザイナーから「権利」を買い取ったり、デザイナーにロイヤリティを支払い、許諾を受けているというのが実情です。


しかしながら、「タイプフェイス(書体)」や「フォント」についての我国の法律上の「権利」は明確ではありません。


そこで、この記事では、「書体」の保護の実情について、我国だけでなく外国の法制度にも目を向けて解説します。

■ 定義

まず、「タイプフェイス」と「フォント」とは別物です。

タイプフェイス」とは「統一されたコンセプトに基づき一定のルールやスタイルでデザインされたひと揃いの文字」のことで、いわゆる書体のデザインを指します。

これに対して「フォント」は、タイプフェイスを表示や記録、印刷など機器を通じて使用できるようにしたものをいいます。

換言すれば、「タイプフェイス」とは文字のデザイン(書体)そのものであり、これをコンピュータに表示したり、印刷したりできるようにしたら、「フォント」となります。


■ 我国でのタイプフェイス・書体の保護状況

タイプフェイス(書体)が著作権法で保護されるか否かについては、我国では否定的な判決しかないというのが実情です。

例えば、「八木昭興対桑山三郎・柏書房事件」では、原告のデザインの「書体」を被告が無断で書籍に掲載したとして、訴えが起こされましたが、東京地裁と東京高裁はいずれも、「書体」の著作物性を認めず、原告の訴えを退けました。
その理由として、裁判所は『書体に著作権を認めることは、万人共有の文化的財産である文字などについて、特定の人に排他的な権利を独占させることになる』ことを挙げています。
争いとなったタイプフェイスの一つ「ヤギ・ダブル」

また「モリサワ対エヌアイシー事件」でも、タイプフェイス(書体)の著作物性を否定する判断が下されました。

大阪地裁は「本件書体のような文字の書体であって、なお、著作権法の保護の対象になるものがあるとすれば、それは、当該文字が持っている本来の情報伝達機能を失わせる程のものであることまでは必要でないが、当該文字が本来の情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさだけでなく、それとは別に、当該書体それ自体が、これを見る平均的一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性を持ったものでなければならないと解するのが相当である。・・・原告の書体は実用性の強いものであって、美的創作性を持っていない。したがって著作物性を認めることはできない。」と判断しました。

■ 我国でのフォントの保護状況

一方の「フォント」に関しては、それがコンピュータで使用されるフォントのプログラムである場合には、「プログラム」の著作物としての保護を認めた裁判例があります(大阪地裁 平成15年(ワ)第2552号)。

原告は、MAC 用の日本語フォントプログラム(本件フォントプログラム)を開発して、平成元年からこれを販売していましたが、被告がその業務に使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクに、本件フォントプログラムをインストールしていました。さらに、被告は、営業トークとして、パーソナルコンピュータの販売を行う際に、本件フォントプログラムを無料でインストールする旨述べていました。

裁判所は、被告に対して当該プログラムの使用を差し止め、損害賠償金を支払わせる判決を下しました。このように、「フォント」を、著作物であるプログラムとして扱い、違法な複製から「フォント」を保護した裁判例があります。


■ 海外における「タイプフェイス」等の保護状況

以上のように、我国では「フォント」をプログラムの著作物として認めた裁判例が一件ありますが、「タイプフェイス」や「フォント」自身を著作物として積極的に認めた裁判例はありません。

なお、我国では「タイプフェイス」や「フォント」は意匠法上の「物品」には該当しないとしており、現行の意匠法では、そもそも「タイプフェイス」等は意匠法上の保護対象となり得ません。

しかしながら、海外に目を向けてみると、「タイプフェイス」や「フォント」を知的財産権の保護対象とする国の方が多いようです。


米国⇒「フォント」を意匠特許として特許法で保護

米国特許庁は、古くよりタイプフェイスを意匠特許として認めてきた歴史があるそうです。
しかし、近年では、米国特許庁は、意匠の特定の特徴を共有する文字のセットから成る「タイプフェイス」は、それ自体は製造物品ではないから意匠特許の保護対象とはならないと判断しており、一方の「フォント」は、タイプフェイスの文字の特定の集合体を作成するために使用される手段を包含することから、この手段が「製造物品」にあたり、意匠特許の保護対象となるとの立場を取っているそうです。

例えば、米国特許第 D516,617 号「タイプフォント(TYPE FONT)」では、以下のような文字が意匠特許として登録されています。



なお、著作権法によるタイプフェイスの保護については、判例上、著作権保護が否定されているそうです。ただし、タイプフェイスを作成するフォントソフトプログラムは著作権保護の対象であると判断されているそうです。


欧州連合(EU)⇒「タイプフェイス」を意匠法(登録共同体意匠と非登録共同体意匠)で保護

欧州連合の加盟国では、「タイプフェイス」は意匠法で保護されます。
また、イギリス、フランスのように、意匠法とは別に、タイプフェイスを著作権法で保護している国もあります


韓国⇒「タイプフェイス」を意匠法で保護

韓国では、「タイプフェイス」が意匠法上の保護対象であることが明記されています。

中国⇒「タイプフェイス」も「フォント」も保護され難いようです。

中国では、フォントプログラムは、プログラムの著作物には該当しないとする裁判例があるそうです。また、「フォントセットは著作権法が定める美術品の要求を満たしているものの、一文字単位では美術作品とは見なせない」という裁判例もあるそうです。


■ まとめ

以上のように見てみると、海外では「タイプフェイス」や「フォント」を積極的に保護することが趨勢のようです。

国際調和の観点からすると、我国でも、これら「タイプフェイス」等を知的財産権法の保護対象として何らかの方法で保護する必要があるように思えます。

私見としては、「タイプフェイス」を意匠法で保護するとなると、出願や公開が煩雑となるため、著作権のような出願や登録が必要でない制度で認めた方が良いと考えます。

また、意匠法で保護するとなると、「タイプフェイス」を構成する一部の文字が、出願前より公知であった「タイプフェイス」の文字と同一や類似であった場合には、「タイプフェイス」の全体の新規性や創作容易性が否定されるのか否かといった争いが生じます。

意匠権の一部を侵害云々」といった新たな争いも生じそうです。

これらの点に鑑みても、意匠法の保護対象に「タイプフェイス」を含ませることは止めておいた方が良いと考えます。




以上です。
(弁理士 森本聡)

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したがいまして、法律的には正確とは言えない表現を用いている場合もあります。

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